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2005年12月14日

「ランド・オブ・プレンティ」--ヴィム・ヴェンダース

[映画・ドラマ・舞台--movie/play ]

ヴィム・ヴェンダース監督最新作「ランド・オブ・プレンティ」。

こうしたことが起きうることを、私たちはみんな知っていた。その可能性を何年も前から話していた。でも悲劇が実際に起きてみると、それは誰が想像していたよりももっとずっと悲惨だ。アメリカ本土が最後に外国に攻撃されたのは1812年である。今日起きたことはまさに前代未聞だ。この襲撃から生じる波紋は、さぞ恐ろしいものになるに違いない。さらなる暴力、さらなる死、すべての人にとってのさらなる苦痛。 こうしてついに、21世紀がはじまる。

2001年9月11日。
ポール・オースターがその日に書き残した言葉だ。

ヴェンダースの新しい映画は、after 911の映画であり
ヴェンダースにとって、常にその視線の先にある「アメリカ」の映画だ。
911、そして、ヴェトナム。
(以下、映画の内容にふれます)

ラナの叔父であるポールの姿を僕らはどうやってみたらいいのだろうか。
ポールは一人、ロスアンジェルスの街をパトロールし、
不振な落とし物や、アラブ系人物を見つけては警戒している。
本来ならば、滑稽ともとれる彼の姿に僕らは「笑い」をもてない。
彼は、現代のドンキホーテか?

ラナはイスラエルから母の手紙を叔父に届けるためにアメリカにやってくる。
ラナの視線はヨルダン川西岸地区からの視線だ。
ラナの目には、一人ドンキホーテの叔父の姿はどのように映るのだろうか?
そして、貧困にあえぐ多くの人々を抱えるロスアンジェルスの街はどのように映るのだろうか?

ヴェトナム戦争に従軍したポール。
「ピンク剤」の後遺症の、その痛み。
乗っていたヘリコプターが狙撃されて墜落し、
生死の境で生き残ったポール。
そして、彼は、生きている。

ハッサンというアラブ人が怪しい。
ポールはそう睨む、が、映画を見ている僕らには
それはポールが過敏に反応しているだけだと分かる。
日本にいる僕らは、そんなポールの姿をどう受け取るのだろうか?
どう受け取ったらいいのだろうか?
ハッサンと名乗るアラブ人は、実はパキスタン人で
その兄の人なつこい性格は、心和ませる、そんなことはあとで分かることだ。
夜の路上でハッサンは射殺される。
そこに陰謀を見るポール。
射殺されたハッサンの死をいたわり、彼の身元を探すラナ。
ハッサンの兄はトロナという街にいることを突き止める。
ハッサンの死体を兄の元に届けるために、
ハッサンの兄に真実を語ってもらうために。
ここから二人の旅が始まる。

二人はハッサンの兄と出会い、顔を合わせ語り合う。
そして、ハッサンを射殺した犯人が捕まったとの知らせ。
犯人はドラッグ中毒の白人の若造。
愉快犯。
うかばれないハッサン。

二人はトロナの街を出て
ゼロポイントをめざす。
そこで見た物はなんだったのか?

ラナの母の手紙からは
ポールの姿への透明なまなざしが感じられる。
afterヴェトナムを生き抜いてきたポール。
その魂が、生きる勇気が
ラナに、ラナの世代の若者に必要だ・・・
これは、まさにヴェンダースからのメッセージではないか。

僕らは、ポールをどんな眼差しで見ればいいのだろうか?

※映画は現在レイトショウのみで上映中。今週まで。

<蛇足-1>
チャンネルが壊れて、ずーっとブッシュの演説を続けているテレビを
ポールが、上からたたいて直してしまうその時に、
ブッシュの姿が画面から消えるのが印象的だった。

あれから一年が過ぎた。アフガニスタンを侵略することによってブッシュ政権がテロリズムとの戦争に乗り出したとき、ニューヨークはまだ死者の数を数えるのに忙しかった。二つのビルの、煙の上がる瓦礫が徐々に撤去されるのを、私たちは血も凍る思いで見守った。空っぽの棺が置かれた葬儀に私たちは参列した。私たちは泣いた。 国際情勢の危機がますます高まってきているいまも、私たちは依然、爆破の犠牲者を弔うにはどんな記念碑がふさわしいかを考え込んでいる。自分たちの街の、破壊された地域をどう再建すべきかを模索している。タリバーン政権の失墜を残念に思う者は一人もいないが、最近ニューヨーカー同士で話していると、政府のこれまでの行動についてはもっぱら失望の声しか聞こえてこない。ジョージ・W・ブッシュに投票したニューヨーク市民はごく少数であり、大半はブッシュのやることを疑念の目で見ている。彼はどう見ても、私たちにとって十分民主的ではない。ブッシュとその側近たちは、現在アメリカが抱えているさまざまな問題に関し、開かれた議論を進んで行ってきたとは言えない。イラク攻撃は近いといった報道が盛んに流れているいま、懸念を抱くニューヨーカーはどんどん増えている。グラウンド・ゼロからみると、地球規模の惨事への準備が着々と進んでいるように思えるのだ。

ポール・オースターの別のエッセイからの一節だ。
911という事件がそもそも疑念だらけであるという話はともかく、
オースターの言葉からは
そこに住むニューヨーカーたちの悲しみが伝わってくる。
その悲しみ故に、ニューヨーカーたちは報復を望んでいたわけではないことも。
正しい道はどこにあるのか?
少なくとも、それは、暴力による報復ではないはずだ。

「トゥルー・ストーリーズ」
著:ポール・オースター 訳:柴田元幸
amazon

オースターの引用は上記本から。
最初の引用は「覚え書き 2001年9月11日」P.254
次の引用は「NYC=USA」P.259

<蛇足-2>
オースターの引用をしたのは
僕の勝手なイメージ遊び、というより
かつて、ヴェンダースがオースターにいっしょに映画を作ろうと
手紙を送ったことがあったため。
ヴェンダースとオースター


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年12月14日 01:45

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コメント

> アメリカ本土が最後に外国に攻撃されたのは1812年である。

第2次英米戦争を前提に、こう考える米国人もいるのですね。わたし
の知り合いの米国人たち(数人)は、アメリカ本土(ハワイを除く)が直接
攻撃されたのは、1942年の日本によるダッチハーバー空襲が最後だ
った・・・と思ってる人が多いようですが。

投稿者 Chichiko Papa : 2005年12月14日 13:46

Chinchiko Papaさん
あくまでも、オースターの書いた文章をそのまま引用していますが
1812年でも1942年でも
911をどうとらえるか、という点では
問題の本質は変わらないと思い、そのまま引用しました。
たぶん、911に関してはアメリカ内でも意見が対立しているのでしょう。
想像に難くありません。
その中で、ニューヨーク市民であるオースターと、たぶんその仲間の方々は
その惨事に対して慈しみの感情を持って接してはいたけれども
暴力による報復など全く望んでいなかった。
ニューヨーク市民であり家族を亡くした人たちの中からは
実は報復を望む声は大きくなかったのだということが
オースターの文章から伝わってきます。
その辺が、今回のヴェンダースの映画と重なってしまいました。

投稿者 fuRu : 2005年12月14日 13:55