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2005年12月22日

Tchaikovsky: Symphony No4----Bernstein

[音楽--music ]

Tchaikovsky: Symphony No4
Bernstein, New York Philharmonic
1989年10月ライブ録音
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山尾さんチャイコフスキーを聴いている記事を読んだ。
山尾さんの文章は不思議なもので、
読んでいると僕もチャイコフスキーが聴きたくなる。
思えば、季節はもう冬。
襟巻きだって欠かせない街角で
iPodに入れたチャイコフスキーはよく似合う。

チャイコフスキーは好きだし、バーンスタインも好きだ。よって、このCDを持っている、
というより、このCDしか持っていなかった。
それで、久しぶりに聞いて、ちょっとした違和感。

ブラスの響きが「?」。

チャイコフスキーはロシアの作曲家だ。
僕にとって、ロシアといえば
ドストエフスキーとタルコフスキー。
特にタルコフスキーの「鏡」に出てくる少年時代の雪の情景は
僕が生まれ育った新潟の冬の景色と重なってしまって、じーんとくる。
冬の雲の、暗く垂れ下がったその下で
一面の雪景色の中、僕は小さい頃走り回った。
その寒さと、防水なんてまったくない頃で、新潟の雪は湿気ていて
手袋もオーバーズボンもアノラックもびしょびしょ。
凍えながら家に帰って、こたつにくるまった、そんな日を忘れることはない。
タルコフスキーの映画には、僕のそんな幼少の頃の記憶が柔らかく重なる。
これはきっと、ロシアと新潟で通底している「なにか」があるからだと思っている。
ドストエフスキーの小説にも
外の寒さから戻った家の中の湿気のある空気がよく描かれていると思う。

僕はチャイコフスキーも同じだと思っていた。
チャイコフスキーの音楽にも、
暗くて湿っていて冷たくて、そんなやりきれないもやもやしたものがあるはずなのだ。
いやいや、あると思っていた。

ところが、この久しぶりに聞いたバーンスタインの特に4番の
ブラスの響きには、どうしてもその湿った空気が感じられない。
この響きはロシアじゃあない。たとえ、それがロシアでなくても雪の情景はそこにはない。
ブラスの響きは、至って乾いている。

バーンスタインのニューヨークフィルひきいる演奏は
ブラスが鳴りすぎて、そこのところどうかな、という方が多いようだ。
端的に言うと、そういうことかもしれない。

僕は、もっとこってりとしたチャイコフスキーの演奏を探す方が良いのだろうか?

いやいや、そうではないのだ。
僕がロシア的とか雪の情景と言っているのは、僕の勝手なイメージの世界だけのものだ。
だって、僕はロシアに行ったことがない。ましてやロシアの冬を体験したことはない。

でも、そんなことを超えて、僕らの中に直接飛び込んでくる。
それが「表現」というものだろう。

だから、勝手にイメージを当てはめて
それと外れているからと言って、批判するのは間違っているのだ、と
そう考えた。

僕は、バーンスタインのチャイコフスキーをとおして
「場所」を飛び越えてやってくる「場所のイメージ」について考えている。

そういえば、以前の記事でバースタインのマーラーについて
「それはマーラーではない」といっていた批評家の言葉にふれたことがあったが
いやいや、「これはマーラーではない」と他人に言わしめしたほどの、それこそがバーンスタイン。
作曲者の個性を超えた、新たな「場所」に音楽の響きを響かせてくれる、そんな革新的な解釈者がバーンスタインである、なんて言うと、バーンスタインを持ち上げすぎだろうか。
しかし、彼が振った、チャイコフスキーの6番を聞けば、そこにはどこにもないような、生と死の狭間を飛び越えたような「場所のイメージ」が存在していることに驚くばかりだ。

などと考えて、ふたたび、バーンスタインのチャイコフスキーの4、5、6番を
4、4、5、4、6、4、5、という感じで
ヘビーローテーションで聞き続けるんだけれども
そのうちに、違和感を感じていたはずのブラスの響きが
次第に、その透明さが快く響いてくるのだから面白い。
冬のきりりとした寒さの中で
ニューヨークフィルのブラスの響きは
バーンスタインの指揮で、その透明さをまして僕も耳に届き始めたようだ。
聞く側、つまり自分の耳が
音楽を聞き込んでゆくうちにどんどん変化してゆくという体験。
その体験が僕の中にあった「チャイコフスキー」というイメージを
少しづつ融解し、また新たなかたちをもって現れると言うこと。
これもまた楽しい。

音楽というものは、なかなか奥が深いところで僕らに響いているのだと思う。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年12月22日 13:05

コメント

いつも素晴らしい音楽記事を、ありがとうございます。
わたしも、昨日からずっと音楽を聴きつづけているの
ですが、クレージー・ケン・バンドの「ベスト!」をかけ
てまして、頭の中でチャイコフスキーの記事と音楽と
のあまりの落差に、ちょっとショックを受けてしまいま
した。(((^^;
久しぶりに、クラシックでも聴きながら帰宅します。(汗)

投稿者 Chichiko Papa : 2005年12月22日 20:31

ChinchikoPapaさん
音楽の幅がひろくて、そして深いですね。
クレイジーケン・バンドの「ベスト」は
僕も買おうかと思ったのですね。
去年の暮れはマイルス聞いていたのですが
今年はチャイコフスキーになりそうです。

投稿者 fuRu : 2005年12月23日 00:22