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2006年07月04日

Hail to the Thief---Radiohead

[音楽--music ]

Hail to the Thief---Radiohead
2003年6月
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村上朝日堂で、ダンキンドーナッツが好きだというのはある種の信仰告白だと村上春樹は言っていました。
Radioheadを好きだというのは、これもひとつの信仰告白なのかなと思います。
でも、好きか嫌いかという、そういう次元を飛び越えたものって、世の中にはありますよね。
僕にとって、Radioheadはそういうバンドになりつつあります。

実は、「海辺のカフカ」で、初めてこのバンドの名前を知ったのでした。

Radiohead

それで、小説に出てくる「KIDS A」を探しにレコード屋さんにいったけれど、
たまたまそのレコード屋さんになかったので、代わりにジャケットが気になったこの最新盤、といっても3年前の2003年に発売されたものですが、を手にしたのでした。

ともかく、このCD。最初に聞いたときのショックは久しぶりのものでした。
そうですね、僕の中では、JoyDivisionの「Closer」を聞いたとき以来でしょうか。

僕は、彼らの音楽から、もがいている、てさぐり、暗中模索、そんなイメージを抱きます。
でも、それは、完成度が低いと言うことではありません。
彼らは、手探りでひとつひとつの音を手元に引き寄せながら、今の時代を浮き彫りにする音の輪郭をクリアにしようという、明晰な意志、あるいは無意識の力で、音楽を作り上げていると感じるのです。

その時、ギター3本という編成は、ギターがノイズ発生装置として進化してきたことを考えると、とても興味深いところがあります。
そして、ノイズの発生装置は、コンピューターも巻き込んでゆきます。

彼らが発生するノイズは、時として醜く響き、いつも美しく心奪われるものではありませんが、今この時代に僕らが置かれている状況にとって、おおきな必然を伴ったものであるという強い確信を抱かせてくれます。
これが、好き嫌いだけでは済まない、彼らの音楽の存在なのです。

(注:誤解なきよう書いておきますが、Radioheadはノイズバンドではありません。)

先日、聴く機会に恵まれた、武満徹の「アステリズム」には、最後に気の遠くなるようなクレッシェンドがありますが、このクレッシェンドの必然性も武満徹の音楽の存在そのものだと思います。

村上春樹の「ねじ巻き鳥クロニクル」や「海辺のカフカ」では、残虐なシーンが執拗に描写されます。そのあまりの残酷さに、村上春樹の小説が嫌いになったという人もいます。でも、村上春樹は、そうした残虐なシーンを描くことの必然性について、「少年カフカ」のなかで繰り返しふれています。
僕らが生きているこの世界を、少しでも良い方向に変えてゆくこと。そのためには、目を背けてはいけないことがあるし、しっかりと向き合うことによって、僕らは様々なことを意識できるようになります。

しかし、悪戯にノイズをふりまいていても何も起こらないのです。そこには、メッセージを発信する側への強い信頼関係がなくてはいけません。村上春樹を僕が信頼するのは、村上朝日堂のような読者との一対一の場所での彼の真摯な態度があるからです。そして、Radioheadを僕が信じるのは、あるいは支持するのは、彼らが一作ごとに手を抜くことなく、自らの世界を変革し、今を見つめる作品群を作り上げてきたこと。そして、このアルバムのタイトル。

2000年、かの国の大統領の選挙スローガン「Hail To The Chief」のもじり。

タイトルについて聞かれて困るのは、もしも僕がこれこれこんな意味なんですって細かく説明でもしたら、殺すぞという脅しを受けるから何だ。で、僕はそんな脅迫は受けたくない。自分の生活や家族の安全を大事に思うからね。こんなの最低だと思う。でもまわりの状況はわかっているつもりさ。(トム・ヨーク)

ノーム・チョムスキーやスーザン・ソンダクでさえ窮地に立たされた状況。
トムの言葉はどのように響くのでしょう。

そして、僕はRadioheadを聴きながらこのエントリーを書いています。
これは、ひとつの信仰告白ではないでしょうか?

噂されていたRadioheadの新作は来年に持ち越されましたが
トム・ヨークのソロアルバムがもうすぐ発売されます。

ERASER
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投稿者 furukawa_yasushi : 2006年07月04日 10:50

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