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2006年07月03日

「東京大学のアルバート・アイラー---東大ジャズ講義録・キーワード編」

[books ,ジャズ--jazz ]

「東京大学のアルバート・アイラー—東大ジャズ講義録・キーワード編 」
著:菊地 成孔 , 大谷 能生  出版:メディア総合研究所
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歴史編」に続く「キーワード編」。
2004年度の東京大学の一般教養の授業としておこなわれた講義をまとめたもの。「歴史編」が前期で「キーワード編」が後期の授業となり、2冊で通年の講義を収録。

UAとのJazzAlbum「cure jazz 」がもうすぐ発売の菊地孔成と、大谷 能生 の東大講義録。

「歴史編」では、ジャズの通史からポストモダンとしてのジャズの姿を浮き彫りにした。
今回の「キーワード編」では、「ブルース」「ダンス」「即興」というキーワードから、
いわゆる「教養としての音楽」では、今まで語ることの出来なかった音楽の本質に踏み込む。
そこにこそ、音楽の欲望、魅惑、官能の本質がある、というのが菊地と大谷のスタンスだ。

それは、調律だけでは解決できないジャジーなブルーノートの解釈や、
ノイジーな音、身体が自然に動く音(律動)などについて、真正面から語ろうということ。
その魅力を探るためには、いわゆる今までの音楽教育にはない視点をもって問題を見つめること。
ここには、学問として囲い込まれた「音楽」からはみだしてしまった
あらゆる音楽(特にわれわれを楽しませてくれる大衆音楽)への、深い愛がある。

基本的には、楽理的な解説ではなく、わかりやすい言葉で授業は進められるが
濵瀬元彦さんをゲストに迎える最終講義のみは、かなりつっこんだ解説がされている。
この最終章は、かなり特別な内容を持っているのだが、それについては、読まれたひとそれぞれの解釈にゆだねたい。

この本を通読して僕が感じたのは、実はエレキギターのサウンドということだ。
エレキギターは、その登場以来、いかにノイズを出すかということがとても重要だという特殊な性格を持って進化してきた。

(注:本書ではギターのことは一切取り上げられていない。しかし、大谷 能生と最終講義のゲストである濵瀬元彦がともにギターリストとしてインプロビゼイションを行っているパフォーマーであることを付記しておきたい。)

ノイジーな音の魅力と言うことでは、サックスという楽器でのオーネットコールマンからコルトレーンへという流れについて、以前のエントリーでふれたが、その流れは、実はエレキギターにおいて開花する。
つまり、エレキギターは電気仕掛けになっているために、音の加工の可能性が飛躍的に拡大していったということ。
ピッキングのアタック音によるノイズ。スクラッチノイズ、あるいはアンプによるディストーション。ハウリングにフィードバック。各種エフェクト。それらの工夫が、多くのギタリストによって生み出され、多くのフアンによって歓迎された。ジミ・ヘンドリックスの演奏にマイルズが魅了されたのもその点が大きいと思っている。

というわけで、1960年代以降に急激に発展するエレキギター関係のノイズの技術が発展した必然性の背後には、人間の音への欲望があるわけで、欲望は時代とシンクロしている。
つまりは、現代において、音楽を語るには、人々がどうしてノイズを求めるのかということを避けては通れないのだ。それが、エレキギターのサウンドということに直接つながるのだ。
菊地と大谷が、この講義を通してジャズを語るときにも、現代という僕らが生きている今のなかで語ろうという、単なる昔話にはしないぞという、そういう強い意志が、この本には感じられる。
そのために、ノイズとは何か、と言う大問題にまで踏み込んだ最終章(僕はそう思う)は意義深いものだと思うし、示唆的な内容を多く含んでいる。そして、それゆえ、単なるジャズ回顧録的なジャズの話ではないというのが、この本のもっとも大切な現代における意味だろう。

<蛇足>
実は、この講義録はネット上ですでにその全貌が公開されている。
second television
しかし、ネット版では図版などないために、理解の難しいところも多い。
今回の書籍化にあたり、図版も一緒に見ることが出来るようになったのはよろこばしい限りだ。

ちなみに、2005年はやはり東大の一般教養の講座でマイルズについて一年間やったようだ。
こちらはブログで更新中。しばらく止まっているが気長に待ちましょう。
note/oto


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2006年07月03日 09:40

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コメント

遅いレスですが…

菊地,大谷両氏の本は、『憂鬱と官能を教えた学校』を持っています。
バークレー・メソッドについて書かれているということと、題名に惹かれて購入したのですが、途中で投げ出してしまいました…

こちらの本も講義録で、ネットで公開されている『東京大学の〜』同様、菊地氏と大谷氏のトークをそのまま活字にしたような作りになっています。
私がそういうタイプの本を読み慣れてないせいでしょうが、冗語性が高いので、ポイントを押さえるのが大変という印象でした。
ただ、こちらのエントリを読んで、最後まで読み進めれば“冗語”を含めた話の中から本質が見えてくるのかもしれないな?と思い改めました。

また読んでみようと思います。
もう殆ど内容を忘れているので、また最初から読み直すことになりますが(笑)。

投稿者 kompf : 2006年07月12日 15:45

kompfさん
>『憂鬱と官能を教えた学校』
は上級者向け
こちらの「東京大学のアルバート・アイラー」は初心者向け、という位置づけのようです。
「憂鬱と・・・」は、かなり専門的な内容ですよね。僕は読んではいませんが、本屋さんで中身をのぞき見した限りでは僕にはちょっと荷が重いなと言う印象でした。
もし、「憂鬱と・・・」に再挑戦されるのならば、こちらを読んでからのやってみるというのも良いかもしれません。
『憂鬱と官能を教えた学校』を読了されましたら、ぜひブログに記事をアップしてください。

投稿者 fuRu : 2006年07月12日 16:59