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2006年07月19日

「一九七二」---坪内祐三

[books ]

「一九七二---「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」」
著:坪内祐三 文春文庫
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ひとつの時代の終わりとしての1972年。
ひとつの時代の始まりとしての1972年。
1972年を結節点として近・現代を読み解こうという試み。
雑誌「諸君!」の連載が2003年に単行本となり、最近文庫化された。

坪内祐三という人のことはよく知らないのだが
調べてみると昭和33年生まれで、僕と5歳しか違わないのに少々驚く。
坪内祐三の紹介

1972年に坪内は14歳。そして、僕は9歳。その間には60年安保がある。
僕にとっても、1972年は「浅間山荘事件」のあった年として強烈に印象に残っている。

坪内のアプローチは興味深い。
主要な文献も押さえながら、基本的には当時の週刊誌の記事を参照する。
記事のタイトルだったり、その文体から読み取れることだったり、その参照の仕方は様々なのだが
それ故に、その当時の空気も生々しく感じることが出来るような本になっていて、
単なる歴史書ではない。そのことがとても面白いが、一部、感覚的な表現も多く、歴史という事実との距離の取り方を読む方がしっかりと取らなければならない本でもある。
しかし、そんなことはどうでも良いくらいに刺激的な本であり、僕らが生きている現代という時代がいかなるものかということを、鮮明に浮かび上がらせてくれる本と言えよう。

本書に出てくる事柄をキーワードとして並べてみよう。

「ポルノ解禁」
「性の開放」
「四畳半襖の下張」
「日活ロマンポルノ」
「性意識の転換」
「連合赤軍における性の意識」
「赤軍派と革命左派の女性観」
「水筒問題から始まる集団リンチ事件」
「永田洋子と遠山美枝子」
「沖縄本土復帰」
「南沙織の紅白初出場の夜-1971年大晦日」
「1972年正月-榛名ベースで起こったこと」
「横井正一さん帰還」
「1950年代からの少年戦記ブーム」
「田宮模型のミリタリーミニチュアシリーズ」
「渋谷大盛堂書店地下-ミリタリーグッズとポルノ雑誌」
「中田忠夫のミリタリーからポルノへの転換-ベトナム戦争」
「奥崎謙三の『ヤマザキ、天皇を撃て!』」
「札幌オリンピック」
「ニクソンショック」
「ニクソンの中国訪問を浅間山荘のテレビでみていた連合赤軍」
「佐藤栄作とテレビ」
「浅間山荘事件-1972年2月28日-テレビ中継」
「CCR初来日-1972年2月28日-大阪公演」
「ロックは肉体を解放する」
「レッド・ツェッペリン来日」
「ピンクフロイド来日」
「グランド・ファンク・レイルロード来日」
「ロック・フェスティバルの商業的成功」
「『はっぴいえんど』の松本隆、僕らの日本を探し出すこと」
「頭脳警察とフォークゲリラ」
「キャロルとロキシーファッション-ロキシーミュージック」
「若者音楽のビッグビジネス化」
「ニューミュージック-吉田拓郎、井上陽水らの成功」
「ローリング・ストーンズの幻の初来日」
「蓮池薫さんが持っていたストーンズの幻のチケット」
「スター誕生-テレビメディアが作るアイドルの時代」
「危険な十四歳」
「子を殺す母たち」
「コインロッカー・ベイビーズ」
「アントニオ猪木 日本プロレスから追放」
「『日本プロレス』中継終了と『太陽にほえろ!』」
「『ぴあ』創刊と帝国主義的拡大」
「大相撲ダイジェスト」
「山陽新幹線」
「日本列島改造論」
「情報社会と『ハレ』と『ケ』の消失」

なんだか、長くなってしまったが、興味深いキーワードが並んでいると感じられたら、ぜひ本書を読んでみられることをお勧めする。

本書の最後のほうで、「ハレ」と「ケ」を生活から失った現代人の心のバランスが崩れ始めている、というくだりは、大いに納得させられたことだけ付け加えておこう。

なお、「フォークゲリラ」が「商業音楽」としてビッグビジネス化してゆく様子に興味がある方は、きたやまおさむが「ビートルズ」(講談社現代新書)で、ビートルズの歩みにあわせて書いているのを読まれるといいと思う。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2006年07月19日 11:20

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一九七二「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」著者: 坪内 祐三ISBN: 4167679795出版: 文藝春秋定価: 710-円(税込)その雑誌を手... [続きを読む]

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コメント

さすがに、リアルタイムで知っているものはありませんでした。
『コインロッカー・ベイビーズ』というと、村上龍の小説でしょうか?
確か主人公のふたりは、1972年生まれだったはず。
この小説を初めて読んだのは中学生の頃だったと思いますが、強烈で、何度も読み返しました。
いろんな匂いを感じる小説でした。
・・・違う本の話になってしまいました(笑)。

1970年ではなく、1972年なのは面白いですね。
音楽系のキーワードが興味をひきます。

投稿者 kompf : 2006年07月21日 00:38

kompfさん
音楽系の話題としては、ロックの商業的な成功とこれまた帝国主義的な拡大がこのころより始まるということです。
社会に対しての抵抗が、ある種むなしく響き始めた時代のはじまりとしての1972年は
ロックが若者に熱狂的に迎え入れられてゆく時代につながります。商業的だからダメだというような価値観はどんどん薄らいでゆくのが1972年ということです。価値観の転換があるんですね。
社会に対して「No!」と言った僕らの前の世代の人々が、こんな言葉で言うと不謹慎ですが翻弄された時代というものを、この本は浮き彫りにしようとしているように感じます。

投稿者 fuRu : 2006年07月21日 13:06