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2007年03月24日

伊藤寛さんの新作とデ・キリコと壁の詩学

[建築--architecture ]

ちょっと前になりますが、伊藤寛さんの新作を見せていただきました。
伊藤さんは、私が勤務していた長谷川敬アトリエの先輩になります。

今回の住宅は木造三階建てで
防火の規制がかかるということもあってでしょう、柱と梁を見せる杉の木のデザインではありません。

伊藤さんの仕事はいつも刺激的です。
私にとって、もっとも刺激的なのは、杉という材料の使い方です。
ちょっとした使い方で、杉という材料がいつもと違う表情になっていて、とても参考になります。
伊藤さんのお仕事は、たんに柱と梁を見せるというのとはひと味もふた味も違った木の家のデザインのひとつのあり方を示してくれていると思います。
ただし、今回は柱と梁を隠して、杉の木は家具の一部だけでしたので、そこのところがちょっと残念でしたが、それでも、かなりの力作でしたし、今回は、杉の使い方ではなく、壁の使い方に刺激を受けて帰ってきました。

敷地の形に合わせた不整型の建物で
プランも不整型。どこにも直角がない、そういう感じ。
また、南に開くよりも
北側に広がる都市公園に対して開く手法で
公園の常緑樹(たぶんシラカシ?)を
三階の居間・ルーフバルコニーに大胆に取り込んでいます。

1階から2階への階段は建物の中央に位置しており
2階のプランは、この階段を回遊できるようになっています。

また、収納や洗面脱衣など、必要な機能が与えられるそれぞれの空間は
個室・トイレ以外は建具で間仕切られず、一続きにつながっています。
つながっていながら、壁の配置が巧みで、視覚的には遮断されています。

建物の内部を回遊しながら、やさしく視線をよけてくれる壁の存在がこの建物のデザインのポイントだなと思いました。

日本の古民家には壁がほとんどありません。
あっても仏間か、床の間くらいかというほど壁はなく
それぞれの空間は必要なときに建具で仕切られて使われます。

しかし、それは古い生活を背景にしています。
現代の我々の生活とは、ちょっとずれている。
設計をやっている立場からもはっきりと感じることですが
壁というものがとっても家の中で、つまりは我々の生活の中で大切になってきています。
家具を配置するにしても、人が集まるにしても、大きな空間のなかでつかず離れずお互いをやさしく意識しながら過ごすときにも、いろいろな壁をうまく配置してあげることで空間を生き生きとしてあげることが出来るの。
設計者である我々は、壁をどうするか、どうしてあげると、開放的でありながら機能的になるのか、
それぞれの家族にとっての最適な壁を考えます。
そうした、ひとつひとつの実践の中から次の新しい形が生まれてくるのです。

話はそれますが、伊藤さんのお仕事を拝見させていただいているときに私が感じていたのは、デ・キリコの絵画でした。壁があり、開口部があり、そのむこうに何かがあるようなないような・・・。影が落ち少女が通り過ぎる。キリコの絵画には壁の詩学とでも言うべきものがありますね。
伊藤さんのお仕事にも壁の詩学を感じていたのでした。

実は、私はキリコの絵画には今まで微妙な違和感を感じていたのですが、それは私の中に壁の意識がなかったからだと思います。今、設計者として壁を強く意識した時に、キリコの絵画はとても刺激的で示唆的なものとして受け入れることが出来ます。

新しい生活を包み込む新しい形が生まれる可能性は、壁の使い方の中にあるのではないか。そんなことを考えながら見学会の会場を後にしました。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2007年03月24日 18:30

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コメント

僕も伊藤さんの建築、好きです。友人が勤めている事もあり、これまで実際何件か拝見させて頂いた事があります。
伊藤さんの建築はいつもどこかで意識していて、自分の実際の仕事でも実は結構直接的に影響を受けている建築家の一人です。特に棚と空間の関係、階段の見せ方、外構の感じがいいなあと思います。建築全体的がどこかキュートなところも好きです。それにしても今回お知らせこなかったなあ(笑)。

投稿者 boro9239 : 2007年04月01日 00:08

boro9239 さま。
伊藤さんのお仕事はディティールが秀逸だと感じています。
それも、よく見かけるようなディティールに固執していて全体のバランスを失ってしまうということがない。逆に、ディティールが空間全体のために生き生きとあるということが素晴らしいですね。特に杉という材料の納め方は良く参考にさせていただいております。

投稿者 fuRu : 2007年04月02日 14:00