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2007年11月20日

立川の家

[建築--architecture ]

土曜日、17日は建築家の伊藤寛さんの最新作を見学させていただきました。
伊藤寛さんは私にとっては長谷川敬アトリエの先輩にあたります。
また、杉という素材をこれほどシャープに柔らかく使いこなす建築家を私は他に知りません。

日本の森が危ない、山が荒れている、そうした問題を解決するには
日本の山にたくさん育っている杉の木を上手に使う必要があります。
杉という素材は、とても柔らかく、その柔らかさがデザインそのものを素朴な木訥としたものに閉じこめてしまう危険性がある。それが悪いというわけではないのですが、もっともっと杉の魅力というものはあるはずです。もっとシャープで、でも柔らかいデザインを杉という素材で実践すること。それが可能ならば、もっと大勢の人に杉という素材は愛されるようになるはずです。そして、その実践をしている数少ない建築家が伊藤寛さんなのです。
そういう意味でも、伊藤さんのお仕事はいつも私にとって関心度が高いお仕事になっていますし、今回はまさに杉という素材の扱い方を勉強させていただきました。

建物は広い土間がキッチンとつながる玄関。そこから二段ほど上がった居間。そして、さらに1m弱あがったところに和室。
まずは、この四つの空間がワンルームのようにつながっています。

最初の写真は、ちょっとあがった和室から居間とキッチンを見たところです。

居間に戻って天井を見あげると杉の縁甲板が綺麗なストライプの模様を描いています。
素材の模様(表情)を生かすために、見切りなどはなし。板も切り放しで潔いディティールは見ていて気持ちが良いですね。

和室への入り口は内法をおさえています。
茶室に入ってゆくような印象。

和室の入り口の向こうは廊下のような階段の様な書庫のような不思議なスペース。

この廊下(左の写真)の突き当たりが、さらに一段上がってトイレになっていて、そのトイレからは外のテラスに出ることが出来ます。

将来の子供部屋でしょうか?仕事部屋でしょうか?
ラワンベニアを少し暗めに染めたインテリアは落ち着いた感じ。
照明器具は光源を点とし、たくみに空間に配置され生命が吹き込まれます。

とても限られた素材で、空間が一様でなく豊かな魅力を持っていることに驚かされます。
空間の構成は、5つのレベルの箱を組み合わせていて、そうしたコンセプトを聞くだけでは奇をてらった奇抜なアイデアで出来た建物ではないかと思ってしまいますが、実際に現地に行ってみると、奇をてらったところが一切無いことに気がつきます。それは、空間の組み立て方がここに住む人たちの生活の上に成り立っているからなのだと思います。

住まい手の生活を掘り下げながら、住まい手の生活にもっともふさわしい空間の組み立て方をした結果として、この家は存在しています。現地でご挨拶させていただいた建て主さんの満足げな顔。建築家の押しつけではなく、一緒に作り上げた幸せな空間。これを実現するには人並みな労力ではすまないでしょう。常に一に帰ってゼロから作り直す伊藤さんの物作りへの姿勢がなくては、こうした仕事は成し遂げられないと思いますし、我々設計者の誰もが見習うべきものをこの建物は持っていると感じました。

立川の家のオープンハウス(伊藤寛アトリエのblog)


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2007年11月20日 00:00

コメント

古川君、先日はオープンハウスにお越しいただきありがとうございました。ブログ拝見。僕が自分自身のブログで紹介しているものより、こちらの方が断然伝わりますね。素敵なコメントをありがとう。
古川君の、僕の仕事に関してのコメントでは杉の使い方についての記述が多く見られますね。でも僕は杉の扱いに関し特別な思いがそんなあるわけでは無くて、特にデザイン性を強く意識して杉を扱う事にそんなに関心はありません。最後のお化粧の部分での遊び程度の意識です。
徹底的に使い勝手や空間の形や開口部などを検討して、そうして出来上がった空間の厳格なプロポ−ションを、とっても柔らかで、痛みやすくて、手に負えないくらいワイルドな材料を使って表現したい、と思っています。杉は素朴で、男っぽい感じがします。

投稿者 伊藤寛 : 2007年11月20日 16:44

伊藤寛さま
コメントありがとうございます。
伊藤さんのお仕事から最も学ばせていただいているのは「バランス」です。
使い勝手、プロポーションに偏らず、素材感に依存しない。
「使い勝手」「プロポーション」「素材感」は一体となって共存、ともにお互いの立ち位置をわきまえているかのように、一つの空間を紡ぎだす。
その中で、私が個人的に杉という素材の使い方を自分のテーマとしているために、私が書くこともそちらに偏ってしまうのだと思います。何事も、偏るのはよくありませんね。

>特にデザイン性を強く意識して杉を扱う事にそんなに関心はありません。

伊藤さんのこの言葉にすべてがあらわれているのだと思います。
もう一つ勉強させていただきました。ありがとうございます。

投稿者 fuRu : 2007年11月20日 16:59

キューブワン・ハウジングさんのHPから飛んできました。
古川さんと細沢さんとお付き合いがあるとは・・ちょっとビックリ!

あの杉のラフの化粧板、作るのに苦労しただけに完成したのを見たかったのですがスケジュールがあわず行けなくて残念!!

あの板がどんな風に見えたのか、屈託のないご意見をいただければと思います。

割り込み失礼しました。

投稿者 アマノyamaguchi : 2007年11月21日 11:22

アマノyamaguchi さま
立川の家の杉材がアマノさんからという話を細沢さんから聞いて
私もびっくりしていました。
たまたま在庫でもっておられた正目の杉、それも無節を、半分に割ってつくったという縁甲板は源平の色もきれいで、素敵なインテリアをつくり出していましたよ。
私もいつかまねをしてやってみたいと思いました。

投稿者 fuRu : 2007年11月21日 11:51