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2008年02月08日

「職人衆昔ばなし 正・続」---斎藤隆介

[books ]

斎藤隆介は童話作家です。
童話とはいっても、村の老人が語り継いできた昔話を、語り継ぐための童話です。
そして、斎藤隆介は、職人達の語りにも耳を澄ませるのです。

2006年3月号で終わりを告げた雑誌「室内」。通算615号。50年余の歴史。
その「室内」に昭和34年10月号から昭和41年1月号まで足かけ7年に渡り、斎藤隆介が老齢な職人達に聞き書きしたルポルタージュが連載され、それが「職人衆昔ばなし」として二冊の本になりました。

ちょうど「ベロだしちょんま」と「花さき山」の間に出版されたこの二冊。

斎藤隆介は客観的な第三者の視点からではなく、一人称の、まるで目の前で職人さん達がこちらに語りかけてくるような文体で、彼らの言葉を綴ってゆきます。
ひたむきに、職人衆の言葉に耳を傾ける斎藤隆介の身体を通した言葉を伝わって、職人衆の姿が目の前に現れる。言葉の息づかい、リズムまでもが書き留められ、こちらに伝わってくる。そうした力強い言葉がここには刻まれています。

その言葉は私の身体に伝わり、そこにある痛みが言葉を通して伝わってきます。

職人の世界は壮絶です。特に小僧の時の思い出話は、殴られた打たれた、蹴られた、そんな話ばかり。賃金ももらえず、休みもなく、つらいばかりの日々。その痛み。

私は小僧の経験なんてありませんが、その痛みは時空を越えて感じることが出来る。

斎藤隆介は職人衆の言葉を身体全体で受け止めた。その痛みを言葉にすることが出来た。
そして、今、私はその痛みを受け止めています。

<正>
昭和35年6月 味方寅治 大工 明治33年生まれ
昭和35年4月 木所仙太郎 大工 明治23年生まれ
昭和34年11月 川村富太郎 建具 明治10年生まれ
昭和36年8月 茂上恒造 指物 明治28年生まれ
昭和36年10月 小川才次郎 指物 明治9年生まれ
昭和35年12月 田中米吉 鳶 明治32年生まれ
昭和36年2月 池戸思楽 左官 明治22年生まれ
昭和36年7月 田丸恵三郎 畳 明治36年生まれ
昭和36年5月 新井茂作 瓦 明治23年生まれ
昭和36年5月 中村勝五郎 石屋 明治19年生まれ
昭和35年10月 飯田十基 作庭 明治23年生まれ
昭和37年1月 長谷川信太郎 漆 明治17年生まれ
昭和37年4月 磯崎祐三 塗装 明治27年生まれ
昭和37年5月 林中之助 竹芸 明治44年生まれ
昭和37年6月 林二郎 家具木工 明治26年生まれ
昭和37年7月 村松喜市 塗装 明治29年生まれ
昭和37年8月 岩田藤七 硝子 明治24年生まれ
昭和37年11月 樋口金正 飾り職 明治40年生まれ
昭和37年12月 高野松山 蒔絵 明治22年生まれ
昭和38年1月 片岡華江 螺鈿 明治22年生まれ
昭和38年2月 中村鶴心堂 表具 明治25年生まれ
昭和38年4月 岡村多聞堂 表具 明治37年生まれ
昭和38年5月 陳乞朋 ほねや 1895年生まれ
昭和38年6月 藤代重 漆 明治34年生まれ
昭和38年7月 筒井辰次郎 椅子張り 明治25年生まれ
昭和38年8月 佐藤重雄 組子 明治44年生まれ
昭和41年1月 土田一郎 目立て 昭和3年生まれ

<続>
昭和35年5月 中沢楢太郎 大工 明治14年生まれ
昭和35年3月 大津鉄吉 大工 明治18年生まれ
昭和35年2月 森武平 大工 明治31年生まれ
昭和34年10月 川端惣吉 建具 明治20年生まれ
昭和35年1月 田中才次郎 建具 明治20年生まれ
昭和34年12月 川口政雄 建具 明治30年生まれ
昭和36年3月 蒔田常次郎 左官 明治10年生まれ
昭和36年9月 溝呂木義郎 指物 明治37年生まれ
昭和36年12月 横山吉次郎 塗装 明治33年生まれ
昭和37年2月 綱島常吉 塗装 明治37年生まれ
昭和37年3月 蒲生生次 塗装 明治40年生まれ
昭和36年1月 竹本金太郎 鳶 明治26年生まれ
昭和37年10月 九重年支子 織り 明治37年生まれ
昭和35年11月 鈴木次郎吉 作庭 明治4年生まれ
昭和35年8月 岡村仁三 数寄屋大工 明治17年生まれ
昭和35年7月 小林丹治 宮大工 明治22年生まれ
昭和39年1月 松本敏太郎 家具 明治32年生まれ
昭和39年2月 古谷松雄 家具 明治38年生まれ
昭和39年3月 井上源之介 家具デザイン 明治29年生まれ
昭和39年6月 清川直英 箪笥 明治33年生まれ
昭和39年7月 小谷誠市朗 銘木屋 明治22年生まれ
昭和39年8月 湊庄吉 材木屋 明治18年生まれ
昭和39年4月 国井喜太郎 技術指導者 明治16年生まれ

さらに続編として「町の職人」があります。

今現在は古本で手に入ります。
「職人衆昔ばなし 正」→amazon
「職人衆昔ばなし 続」→amazon

<蛇足>
どこかの国の国技の世界で、若い者を殴って蹴って殺してしまったと言う話がありましたが、そこにある暴力と、職人を育ててきた徒弟制度とは決定的に違うと感じています。その違いを考えることが、とても大切なことだと思います。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2008年02月08日 10:10

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コメント

これまた実に興味深い本です♪

投稿者 ピョン太 : 2008年02月09日 23:52

ピョン太さま
この本は、面白いどころではなくて
我ら必読の書、と思われます。
是非一読を!!

投稿者 fuRu : 2008年02月10日 00:06

「職人衆昔ばなし」は私も昔からの愛読書のひとつです。実は友人の俳優とふたりの朗読会をたちあげ、最初に彼が読む作品として、この職人の中の1人を読んでほしいとリクエストしました。そこで選んだのが指物師の茂上恒造さん(ホームページではお名前が最上さんと間違っていました)です。一人芝居のように、茂上恒造になりきって語ります。有名な文化人の方ならともかく、指物師としてコツコツ仕事をしてこられたかたの言葉が、そっくりそのまま脚色なしに一人芝居になるというのは なんとも面白い試みではないかと、自分たちで自画自賛しております。今後ひとりずつ演じて行けたらいいなとも思っています。(女性が一人しかいないので私は読めなくて残念ですが…)斉藤隆介さんの奥様には快く著作権のご了解をいただきましたが、曰く、これを朗読するのは初めてでしょうとのこと。
 いま、ご遺族の方を探しているところです。もしも12月1日の公演にお呼びできれば、会場で当時のお話などをインタビューしてみたいと考えています。ゆかりの方をご存知でしたら教えてくださいませ。

投稿者 河崎早春 : 2010年10月18日 21:03

河崎早春さま
コメントありがとうございます。
誤字のご指摘も重ねて御礼致します。さっそく訂正させていただきました。
さて、ゆかりの方を知っているかというお問い合わせですが、残念ながら存じておりません。お力になれずにすみません。
12月1日に朗読の会が行われるのですね。それも職人集昔話の朗読となると興味がわいてきます。斎藤隆介の言葉は朗読でさらに生き生きとその存在感をますことでしょう。是非、予定を調整してうかがわせて頂きたいと思っております。

投稿者 fuRu : 2010年10月19日 12:09