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2008年04月10日

「砂漠のバー止まり木」---三遊亭白鳥

[books ]

「砂漠のバー止まり木 三遊亭白鳥創作落語集」
著:三遊亭白鳥 発行:講談社
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先月の博品館で行われた白鳥師匠の独演会。
とても素晴らしかったんですが、その素晴らしさって、師匠の話に「物語の骨格」がしっかりとあったからに他ならないと思います。
でも、「物語の骨格」って何なんでしょうね。これは、説明するのがなかなか難しい。
でも、私の生業でもある建築設計にも物語の骨格というものが大切だと、最近考えているのです。

白鳥師匠は噺家ですが自分で作った新作ばかりやっている噺家です。
噺家というのは江戸時代から語られ続けている古典をやる方が多いのですが師匠は新作しかやりません。落語フアンの中には新作なんて落語ではないと一瞥する方もおられますが、長い歴史の中でつちかわれた話芸の奥の深さからすると、それも首肯ける話ではあります。
一応、師匠も、「時蕎麦」とか昔ながらの落語もやるのですが、そこはどっこい、話は大きく変わっていたりまします。それは物語の骨格を矯正しているような変形の仕方をしているんですね。その矯正が心地よいと感じるか不快に感じるか、受け取り方も様々であると思うのですが、様々な話、逸話をふまえて変形しているのは確かで、そこに師匠の手腕であり独創性であり物語への深い愛情がかいま見える。そういう意味では白鳥師匠ほど噺家らしい噺家はいない、話をするということ、そこで伝えるなにか、それこそが「物語の骨格」と言えるもの。それは、ただのだじゃれにすまない、言葉遊びにすまない、なにか人の心を揺さぶるものとでも言ったら良いのでしょうか。

落語は話芸です。表情や手振り、身振りを交えたパフォーマンスの芸です。もちろん書き言葉にした台本のようなものもありますが、どちらかというと口伝、口伝えで師匠から弟子に受け継がれてきた芸能です。口伝ということで言えば歌舞伎も同じ。
そういえば、今回の白鳥師匠の噺に感じた「物語の骨格」に近いものを以前に感じたことがあって、それは中村吉右衛門の「熊谷陣屋」を観た時でした。その時は「熊谷陣屋」のシンプルなストーリーを、表情や演技で端正に形作ることで「物語の骨格」を表現しており、その力強さにいたく感動して帰ってきたのでした。また、今は亡き六世歌右衛門の「伽羅先代萩」の正岡も素晴らしかった。

こうした感動は文章を読む書き言葉からの感動ではありません。それゆえに、舞台があり高座があるわけですが、それでも、ここにある感動は「言葉の力」によっている、さらに言えば「物語の力」に寄っているのは確かなわけです。そして「物語の骨格」というのは、この「言葉の力」と「物語の力」によってつくられているのだと思うのです。

「書き言葉」と「話し言葉」という難しい問題に入ってゆきそうなところを踏みとどまり、どちらも「言葉」であるという単純な事実をしっかりと見つめることが大切なんだと思います。

というわけで、なんだか結論どころか話の序章にもいたっていませんが、この「物語の骨格」については、考え続けてゆきたいと思っています。建築の設計にも「物語の骨格」というものが、ちゃんとあるということまで示すことが出来たらと考えています。

話が大きな方に行ってしまいましたが、この白鳥師匠の創作落語集を読んでいると師匠が「物語の骨格」を大切にしていることがよく分かります。
大げさな理屈抜きでとても面白い本、面白い「物語」の本になっていますので、よろしかったらどうぞ。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2008年04月10日 12:10

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コメント

こんにちは。
私も少し読みました。というか少ししか読めなかったんです。
「物語の骨格」については同感ですが、私は逆に、白鳥さんのあの語り口があってこそ、物語が生き生きと浮かび上がって来るんだと感じてしまいました。
んー、なんていうか、説明が多すぎるのも気になったし…。
携帯小説がものすごく面白かっただけに、本としては私的にはちょっと残念です。

投稿者 くろべえ : 2008年04月10日 17:46

くろべえさま
やはり噺家は高座がすべてです。
白鳥師匠の魅力も高座が一番。それも、DVDなんかじゃなくて生が一番ですね。
今回の独演会でさらにそのことを強く感じました。
ですから、この本はあくまでもサブテキスト。
でも、こうして書き言葉になっても、物語の面白さがしっかりとあって、そこがやはり違うのだなと再認識した次第です。
実は、師匠には長編小説を書いてくれないかなと、私はちょっと期待していたりします。

投稿者 fuRu : 2008年04月11日 09:44

長編小説、書いてほしいですね!
私も期待します!
今度サイトでリクエストしてみようかな。

投稿者 くろべえ : 2008年04月12日 00:22

くろべえさま
師匠には幻の長編小説があるらしいです。
「東京タワー」という小説を出した出版社のようですが、残念ながらその本は入手困難のようですね。
それはともかく、新作でお願いしたいところです。

投稿者 fuRu : 2008年04月12日 19:36