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2008年10月23日

「もう牛を食べても安心か」---福岡伸一

[books ]

「もう牛を食べても安心か」
著:福岡伸一 文春新書416
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生物と無生物のあいだ」のエントリーのコメントで
H.Suzukiさんよりご紹介をいただいたこの本も、やはりすこぶる面白かったのでした。

テーマは「狂牛病」、そして食の安全です。
著者独特の筆のさえが「狂牛病」に迫ります。

「プリオンタンパク質」と名付けることが大きな影響を持ったというくだりは
社会現象のありかたとしてもとても興味深い話です。
世界の真相のある一面。それも真実、というところでしょうか。
研究という実態があると思われている世界でも、コピーライトの力が影響を持つんですね。

そうした研究の世界の虚像をあぶり出しながら「狂牛病」の原因がプリオンタンパク質、それも異常型プリオンタンパク質が病気の原因ではないかという考えにたどり着く過程はとてもスリリングです。

ところが、次のような記述で、読者は大きく混乱してしまいます。

結局のところ、今の今に至まで、プリオンタンパク質に関して、「精製したサンプルを接種し病気を起こさせる」という決定的要件が立証されてはいない。

プルシナーがノーベル賞を受賞したのは「プリオンタンパク質」に関する功績においてであったのですが、その功績とは「プリオンタンパク質」と名付けたことだったのか、ということにもなりかねない。

ただ、著者は次のように続けています。

とはいえ、その後次々と明らかになった状況証拠はプリオン仮設に非常に有利である。

そして、本書は、そのプリオンタンパク質というものの得体のしれなさにふれます。
よく、「狂牛病」の「危険部位」という言い方をして、その部位以外は安全であるかのような説明がされますが、実は「危険部位」というのは、たまたま今まで発見された部位のことでしかなく、他の部位が安全であるわけではないのです。
物腰の柔らかそうな著者も、そうしたマスコミの無責任な説明に怒りを示します。
実際のところ、「狂牛病」については何もわかっていないに等しいこと。それゆえに、予防的安全対策を十分にする必要があること。そのためには、全頭検査は避けて通れないと続けます。
とても説得力があります。

私もこの本で「狂牛病」がいかに特殊な不思議な病気であるのか、その一端を知ることができました。
多くの人におすすめ出来る本だと思います。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2008年10月23日 15:40

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コメント

お久しぶりです。興味深く拝読しました。福岡先生には、その後、私の研究部会(古川さんにも一度お仕事で私の職場に来ていただいたことがありますが、同じ部会)で大人向けの講演をお願いしたことがあります。2001年9月の「日本で狂牛病発生!」のニュースは、日本の食肉業界を震撼させる大事件でしたが、その後日本では全頭検査が徹底されることとなり、問題そのものは落ち着いています。しかし、問題はまったく解決していないのが実情だと思います。問題の風化こそが問題です。
もともと、人間の都合で牛に肉骨粉という「共食い状態」を強要したことが遠因になっているということが、この本を読むとわかります。考えてみると、不自然な形で人間の都合に合わせようとしていることは、食べ物に限らないのです。
また福岡先生には話を伺いたいと思っています。

投稿者 H.Suzuki. : 2008年10月24日 00:34

H.Suzuki.さま
ご紹介いただいてずいぶん経ちますが、やっと読了いたしました。
それにしても、「狂牛病」について、私などはまったく無知だったことを思い知らされました。
著者の福岡さんのような方が、こうして本に書いてくださったおかげで、その一端に触れることが出来ます。そして、その本も、H.Suzuki.さんからお知らせいただいて、私も手にすることが出来たわけです。
人から始まって、人からつながる。テレビなどのマスメディアにはない、情報の質がそこにはありますね。この本で出てくる「プリオンタンパク質」という命名でメディアが動き、世論が動いたというというくだりは、情報の質の問題も問いかけてくれていますね。

投稿者 fuRu : 2008年10月24日 09:56