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2009年02月25日

「500万円で家をつくろうと思った」---鈴木隆之・藤井誠二

[a-家づくりについて---house_making ,books ]

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「500万円で家をつくろうと思った」
著:鈴木隆之・藤井誠二 出版:株式会社アートン
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建築家鈴木隆之氏が施主藤井誠二氏からのオファーで、500万円で家をつくることに挑戦したドキュメント。
現代日本の家づくりに巣くう問題点を切れ味のよい刃物で手際よくさばいてくれているところには大いに共感するものの、ちょっと愚痴っぽくなっている本音話もあります。
完成した家のテイストはアトリエフルカワが向いている方向とは少し違うけれども、考え方はとても魅力的だと思いました。

最終的には、実費で640万円かかったわけですが、多くの学生さんなどのボランティアによる労働があってのこと。建築家自身も一般例にはなり得ないと断言していますから、ローコストという切り口でこの本を読むのは問題でしょう。
でも、家づくりの原点、家ってなに、という深遠な問いかけに対して、真摯に答えている仕事だと思います。ゆえに共感するところ多し。

最も興味深い部分を引用しながら紹介しましょう。

「住宅は高すぎる!」と非難している側の消費者のほうにも、その低価格化を阻んでいる原因がある。(P-31)

その原因を鈴木氏は「虚栄心」であると断定します。
だれも「安っぽい家」なんて欲しくない。出来るだけ立派であることが大切。その中に、出来るだけ大きくという気持ちもはいっているでしょう。

そして、出来るだけ大きな家、立派な家をたてさせる「からくり」について語られます。
ちょっと長くなりますが引用しておきます。

自分の家を建てようというひとは、まず自分の土地を用意する。もともと持っているのか、新たに買ったのか、ローンを利用したのかは別として、まず土地の権利を手に入れるわけです。日本で土地信仰は根強い。その価格は建築よりも断然上だし、値下がりもまずないと見られてるから、担保価値は建築とは比べるまでもなくずっと高い。すると、銀行はその土地を担保にお金を貸してくれる。どうせなら、その土地の担保しうる最高限度を貸したいと、銀行は考える。そのほうが利子をたくさん稼げるし、もし返済が不可能になったって、土地を差し押さえられれば損失は何もない。建築の値段なんて土地と比べれば安いんだから、せいぜいたくさんお金を借りて立派な家を建ててください・・・銀行はそう考える。(P-57)

こうした銀行の思惑と「虚栄心」が結びついているわけです。

鈴木氏の言い分は都心部に限る部分もあります。場所によっては建築工事費のほうが高いところだってあるのだから、それを無視して論じるのも問題だと思います。ただし、人が住みたいと思っている場所であれば、相対的な違いこそあれ、おおむね建築工事費に比べて土地代のほうが高い。土地のほうが価値があると見なされる。もっと嫌な言い方をすれば建築に対してお金は貸さないけれども土地には貸すというケースがとても多いのは事実です。

銀行の思惑と虚栄心が結びついた家づくりは、どんどん巨大で立派な家を生み出してきました。
家づくりとは本来そこに住む人のためのもの。そこに住む人にとって必要十分なものを備えているべきもの。それが、不要なものばかりが加わり家が肥大化する。掃除も大変だし、維持管理も大変。使わない部屋が埃の部屋となる。一方、家長は終身ローンに拘束される。これもすべて、家づくりが投資の対象、つまりは金融商品になってしまったために起こってしまった悲劇ではないでしょうか。

鈴木氏の論旨は明快です。とても共感できます。
そして、現在の話で言うと、土地価格の値下がりが始まっています。「大きな家・立派な家」のよりどころとなっている土地信仰は崩壊するという人もいます。土地信仰が崩壊すれば、実は家づくりそのものが崩壊するかもしれない。全額自己資金でなければ家が手に入らない。土地でないならば何に対してお金を貸すのか。そこに200年住宅という価値観が入ってくるのですが、それは新たな金融商品の誕生に他ならない。出来れば、土地信仰の崩壊のあとには住まい手のための本来の家づくりが取り戻されてほしいと願うのは私だけではないはずです。

そこで、私が考えるのは、必要な大きさの家を必要なだけ自分でつくるという道です。小さな家のセルフビルド。その可能性について私は考えています。

500万円で家が建つというのはとてもキャッチーなコピーですが、それよりもなによりも、本当に住まい手のことを考えた家づくりとは何なのかという大命題への挑戦のドキュメントとしてとても素晴らしい本だと思います。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2009年02月25日 12:30

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