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2009年06月23日

奪われた物語を取り戻す物語--語られない物語

[books ]

その少女の両親はカルト宗教の信者。
厳格な教えの支配の下、少女は幼年期を過ごす。
給食の時間も奇妙なお祈りの言葉を声を高くして唱える。
そんな奇妙なお祈りを唱える友達はひとりもいない。
孤独。
そして、孤独を通り越した孤立。
物語とは人と人の関係をつむぎだすことだ。
人は誰もが自分自身の物語を語ることで自分の人生をつむぎだす。
人とつながり、社会の中の自分自身を見つけ出すこと。
物語は人と人を結びつけるために強く必要とされている。

厳格な教えの支配下にある少女。
彼女にとって物語を語ることとはなにか。
自分自身を語ること、自分の人生をつむぎだすこと。
人と自分が深くつながっていると感じること。

その教えがいかに正しくとも
孤独を強いられる、孤立を強いられる以上
それは少女から物語を奪い去ってしまうことにしかならない。

少女は物語を奪われた。

ある日、少女を守る一人の少年。
その少年と深くつながりたいと思う少女。

少女は(きっと)強く物語を取り戻したいと願ったことであろう。

人とつながりたい。

その気持ち。

自分自身の人生を自分の言葉で語ること。
物語を語ること。

少女は自分自身の物語を取り戻す。
奪われた物語、失われた物語を取り戻すこと。
それは容易なことではない。

この小説で描かれていないこと。
それは少女が物語を取り戻す過程。
しかし、物語として語られはしないが
ストーリーの点景として語られる少女の過去は
物語を取り戻すという物語を浮き彫りにしてくれる。
読者であるわれわれがその物語を
小説を読むと言う行為の中で体験する。

この小説は失われた物語、奪われた物語と
それを取り戻す物語の話だ。

そして、物語をつむぐものは
少女の、そして少年の純真な相手への想い。
それゆえ、この小説は純愛小説として光り輝いている。

<蛇足>
この小説が二冊で完結するかどうかおおいに興味のあるところです。
最初はその少女が物語を取り戻す過程が別に描かれるべきなのではないかと思っていたので、私も続編がでるものと考えていました。ですが、考えれば考えるほど、この小説は語られないと言うことが大変大きな意味を持っていると言うことに気がつきました。逆に、語れらないのにその隠された物語のなかで少女が何を感じてきたかがしっかりと描かれていることに気がつきます。読後しばらくたちますが、ますます少女の姿が私の中にイメージとして生き始めています。ですから、今は続編は出ないだろうなと思っています。


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投稿者 furukawa_yasushi : 2009年06月23日 08:55

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