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2004年09月14日

「The End of Violence」--Wim Wenders

[映画・ドラマ・舞台--movie/play ]

1998年に書いてホームページに載せていた文章を再掲する。
「The End of Violence」という映画から
ヴィム・ヴェンダースの「まなざし」について書いていた。
文章が不明な部分をこの機会に大幅に書き改めた。



ヴェンダース監督の最新作である。今日4月1日は映画の日だから通常は1800円が1000円で見ることができた。

映画は「violence」という言葉と「映画プロデューサーの失踪事件」を中心に、様々なエピソードがかさなりあい展開してゆく。

命をねらわれる映画プロデューサー。プロデユーサーはなぜ命をねらわれたのか。それは国家機密を知ってしまったから。なぜそんなことを知ることになったのか。それはとある情報機器の展示会で知りあったNASAの技術者がE-Mailで知らせてくれたからだ。なぜ技術者はプロデユーサーに伝えたのか。その国家機密が特殊兵器の開発に関わることだったから・・・。
しかし、最後の点には映画は答えてくれない。その理由についてはまるでどうでもいいかのごとく映画は進んでゆく。

殺されそうになったプロデユーサーは自宅から逃れ逃れて、不法滞在のメキシコ人の家族の元へ辿り着く。そこで彼らと1ヶ月にわたっていっしょに暮らす。それは、FBIの捜査の手から しばらく身を隠すためではあるが、映画進め方として本来考えられる、失踪→追跡→謎の解明、というぐあいに進む、いわゆる定番の筋書を無視した形で映画は展開してゆく。メキシコ家族と和やかに生活する彼の姿が大きく印象に残る場面の作り方。人と人との交流が大切なんだというヴェンダースの声が聞こえてきそうだ。

メキシコ人家族の長男が彼に言う。
「われわれを好きになるな。おまえは追われているのだろう。追われている人物の友好関係にあれば事件に巻き込まれる。そいつはごめんだ。」
「しかし、」と彼は続ける。「われわれがおまえに好意を持つ分には問題がないのだからな」、と。メキシコ人家族のやさしさがにじみ出ている会話だ。

さらに、映画にはもう一つの別のストーリーが用意される。
スタント女優とプロデューサー失踪事件の担当刑事との恋。
彼女はプロデユーサーと偶然に再会し事の次第を聞く。そして、その情報を得て刑事は彼女のもとに行く。そこにいく理由は事件を解決するためばかではなく、純粋に彼女に会いたいため。彼女は事件のことを話題にするのなら帰ってくれと彼を追い返す。刑事は自分の中にある二つの気持ちがこの状況で大きく矛盾していることにうろたえる。彼女への愛か、事件解決への義務と欲求をみたすことか。彼は答えを見つけられずに彼女のもとを去る。しかし、彼への自分の気持ちに気付き彼のもとへ行く彼女。そして、この男がすべてを知っている、とNASAの技術者の名前を刑事に教える。

その技術者も、刑事との待ちあわせのその場で射殺されてしまう。謎はいつまで経っても謎のまま。技術者の監視役でお手伝いに扮して近づいたスペイン系母子は技術者のやさしさに答えるべく影の組織から身を引く決心をする。

一方、映画プロデユーサーは技術者から送られたE-Mailが原因で命がねらわれているのではと、未だに内容も知らないメールの確認をするために、パソコンサービスの店にメキシコ人家族の協力で顔を出すが、すでにメールは削除されていた。そして、メールの内容を知らなかったという事が判明して映画プロデユーサーは解放される。

映画を見終わって不思議な気分で数日を過ごしていたが、ひょんなことからもう一度見る機会を得て、このストーリーの中でキーワードとなる言葉が耳にした。その言葉は、正確には覚えていないのだが、確か若い刑事のこんな台詞だったと思う。

「物理学の世界では観察者によって結果が変わるんだ。そう、この僕がどんなふうに見るかによって結果が変わるんだ。」
見つめるまなざしが世界を変える。

ヴェンダースの映画の中で常にテーマになっていたもの。それは「まなざし」だ。見つめる事。それが映画そのものの事となり、映画によって映画を語る。ヴェンダースにとって映画とはみつめる事。見つめるカメラの視線。それを追う監督のまなざし。ヴェンダースは映画によって何が出来るのかを深く問うている。そして、彼は映画によって強烈なメッセージを発信する。「The end of violence」ー暴力の終結。

あるインタビューでヴェンダースはこの映画について次のように語っていた。「暴力を終結させるものは暴力ではない。それは愛である。」

国家機密の監視装置で示される見つめる事、監視の暴力。その暴力によって別の暴力、犯罪を押さえつけようとする人々。一方、メキシコ人家族の愛の「まなざし」で心を開いてゆく主人公。同じくNASAの技術者をスパイしていたスペイン系母子も、スパイしていたはずの技術者の「まなざし」により心を開いてゆく。

愛のまなざしが世界を変える。人の人生を変える。映画のまなざしが人の人生を変え、世界を変えること。ヴェンダースの壮大な狙い。暴力の終焉ははたしてやってくるのか。

(1998.05.05)

投稿者 yasushi_furukawa : 2004年09月14日 01:00

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