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2006年11月08日

「昭和住宅物語」---藤森照信

[books ]

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「昭和住宅物語」
著:藤森照信 発行:新建築社
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敬愛する建築家である秋山東一さんのブログ紹介されていたのを見かけて
そういえば、読みたい本リストに並べたままほこりをかぶっていまだに未読であったことを思い出した。
これは良いきっかけと、さっそく読んだが、これは本当に面白かった。
語り口が軽妙でいい。
住宅設計に関わるものとしては、昭和という時代が生み出してきた傑作住宅とその設計者、時代背景が丁寧に描かれているのを興奮気味で読み終えた。

23の建物とそれに関わる建築家が紹介されている。

池辺陽の頁では、その世界観が未消化(誰が消化できているというのだ)な印象で
ほかの頁では鋭い藤森の筆も鈍くなりがちなところが面白かった。

ステンレス流し台の頁では、ダイニングキッチンというアイデアが
ステンレス製の流し台の出現によって初めて人々に受け入れられたという下りが面白かった。

と、面白いことがたくさんつまっている本なのであるが
石山修武についてふれている頁が一番興味深かった。

昭和の住宅を語ることは近代住宅、モダニズムの住宅を語ることになるのだが
モダニズムというのは、産業革命以降の「生産する機械・移動する機械」にその根源をおく。
そうしたモダニズムの思想を建築に接触させて実践してきた者は
実は今までいなかったのではないだろうか。
その初めての実践者として、藤森氏は石山をとらえようとしている。
これは、建築とは何かという根源的な問いへの暗闇の手探りであり、
先を照らす光となるのではないだろうか。
ようは、藤森氏が石山を取り上げるとき目の前に据えている問題意識は
この本の中でもっとも根源的かつ深遠なものなのである。

とすれば、昭和を飾る傑作建築の流れも
石山を論じるための背景に思えてしまうのだ。

そして、これはたぶん、藤森氏にとって、石山がもっとも共感できる存在であるからなのではいかと思った。

藤森氏は最後の対談で、建築史と路上観察が大好きであると述べた後、次のように語っている。

だけどひとつ嫌いなものってあるのよ。それはね、秩序とかシステムというものがイヤでイヤでたまらない。肌が合わないというか。でも今の都市では、主流は秩序でありシステムですよ。それは絶対間違いない。東京のこんな狭いところに一千万人以上もウジャウジャしていたら、基本的にあらゆるレベルで秩序とシステムをきちっとつくっておかなきゃ不可能で、それは、社会のつくり方から建築的なことから交通から何から何まで浸透しているわけ。それはやはり、苦手なのね。それじゃないものとしては国家の意志みたいなのがある。普通ね、国家の意志と、システムや秩序っていうのをみんなごっちゃにしているけどさ、今のシステムを本当につくっているのは経済のシステムで、政治の秩序じゃない。政治の秩序なんていうのは、いわば、二十世紀の遺物みたいなもので、二十一世紀にはあんなものなくてもよくなる。
だけど僕は経済のシステムがつくり上げた都市とか経済のシステムの原理というのはやっぱりイヤなのね。(P429)

藤森氏が近代建築の中に見出そうとしているものが何であるのか。
そして、それは、現代というフィルターの中では
石山修武の試みと重なるに違いないということ。
そうしたことがよくわかる言葉だ。

そして、僕も藤森氏のこの言葉に深く感銘し共感を覚えるのだ。

投稿者 yasushi_furukawa : 2006年11月08日 09:18

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