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2004年12月26日

「炭焼紀行」--三宅岳

[books ,ゆっくり--slow ]

「炭焼紀行」
著:三宅岳 発行:創林社
定価:2800円+税 →amazon

三宅岳さんは山岳カメラマンです。
山登りのガイドブックなどもたくさん書いておられますから
「山岳カメラマン」と言うのが良いかと思うのですが、実は山岳写真にとどまらず
「山」を生活の糧にしている人々の姿をとらえた素晴らしい写真を撮られる方なのです。
だから、「山岳カメラマン」というよりも「山カメラマン」と言った方が良いかもしれませんね。
そして、この本は、三宅さんのライフワークとも言える
炭焼き職人さんの世界を10年にわたり追いかけてきた記録です。

日本人の生活に山は限りない資源を与え続けささえてきました。
建築用材としての木材をはじめ
漆器の漆や木地、そして山菜。
なかでも僕らの生活に最も密接に関わってきたのは炭や薪です。
炭や薪が僕らの生活から離れてしまってどのくらいになるでしょうか?
1960年代のエネルギー革命によって、炭や薪は遠くに追いやられ僕らは石油の時代を迎えたわけです。時代は、炭や薪よりも石炭、そして石炭よりも石油へと変わりました。そのようにエネルギー源はどんどん効率のよい、より高い温度で燃焼するものへ変わってゆきました。他人よりも一歩先へゆくために、他人に追い抜かれてしまわないために、社会は競ってエネルギー革命を受け入れてきたのだと思います。そして、僕らの生活も燃焼効率の高いエネルギー抜きでは考えられない(維持できない)ように変わってしまいました。
その結果、炭や薪は時代遅れとなり、僕らの生活からは用済みの烙印を押されてしまったのです。

この本には、今でも炭を焼き続けている人々の姿が描かれています。
有名ブランドとなって高級な炭を日本全国に出荷している人もいれば
ごく普通の炭を必要な分だけ焼いてる、そんな人たちもいます。

特に三宅さんの視線は、ごく普通に炭を焼いている人々に向けられていると僕は感じました。

いま、炭ブームです。備長炭とか超有名なブランドの炭を、人々はこぞって求めています。しかし、それは炭の文化のホンの一面でしかない。炭というのはもっと僕らの生活に自然に結びついているものなのだ。そんな声がこの本からは聞こえてきます。
かつて僕らの生活が、炭を通して山(=自然)と深くつながりがっていたことを、かすかに記憶にとどめておくための記録(残された最小限の現実)がこの本にはあるのです。

いま、里山ブームです。
それは、里山の景観が、なんとも心和ませるものだったりすることが人々の心を掴んでいるのかもしれません。あるいはお父さんお母さんが、幼少時代に野原を駆け回り川で魚を捕まえた記憶への、それは郷愁なのかもしれません。
しかし、里山というのは炭や薪を生産していた拠点であり、生活に強く結びついた場所でした。炭や薪をつくっていたからこそ、あれだけ手入れされた美しい景観が維持されていたわけです。ですから、いまの「里山ブーム」で、その炭や薪の生産をやめてしまった里山というものを一生懸命再生しようとしても、それは形骸化された、ただの流行に終始してしまうことになりかねない。それでは、本当の意味での里山の復活はありえないのです。

この「炭焼紀行」には、里山で炭を焼く人々の姿=生活が描かれています。そして、彼ら彼女らの姿は、里山という場所が人間の生活にとっていかなる場所であったのか、いかに深くつながっていたのかということを僕らに教えてくれています。僕らは、その姿から多くのことを学ぶ必要があると思いました。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2004年12月26日 18:20

コメント

相模湖の南山麓に当たる藤野にお住まいの時、お会いしたことがあります。
あそこは芸術村みたいになっているので、いろいろな方がお住まいですが、その時はセルフビルドされた方の家を訪問いたしました。
活躍されていますね、彼。
確かお父さんも山岳写真家で一緒に「山岳写真の四季」という本も出版されています。

投稿者 Kurita : 2004年12月26日 21:35

kuritaさんも三宅さんをご存知でしたか。
実は僕の家人と三宅さんの奥方が大学の同級生。
三宅さんの奥方は僕からしてみるとワンゲルの後輩だったりします。
そんな縁で僕も藤野のご自宅に遊びに行った事があります。
今でも藤野のあそこに住んでいますよ。
藤野は陶芸家などが集まってきていて、kuritaさんが言われるような芸術家村として、どんどん知名度が上がってきています。確か、クリエイターと村人が一緒になってお祭りみたいなことを毎年企画していますね。
岳さんのお父さんは三宅修さん。山と渓谷という雑誌でよく写真をみかけていました。とても有名な方ですね。

投稿者 fuRu : 2004年12月27日 09:50