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2004年12月25日

Sketches of Spain---Miles Davis

[ジャズ--jazz ,音楽--music ]

Sketches of Spain---Miles Davis
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1959年11月15日、20日と1960年3月10日の録音

北風がピュー。
落ち葉がザワザワ。
そして、ギル・エヴァンズのオーケストラにむせび泣くマイルスの音色。

僕がマイルスと最初に出会った高校生の頃から憧れていた印象的なレコードジャケット。
それがこの「Skeches of Spain」。
大学生になって初めて聞いた時の最初の一音。
「あれっ?」
高校生の時に「Round About Midnight」や「Kind of Blue」「My Funny Valentain」「Bitches Brew」に打ち負かされた僕にとって、そこから流れてきた音は、まったくと言っていいほど理解できないものだったのです。
とくに、「Kind of Blue」の直後の録音なわけですから、「Kind of Blue」的な世界を期待してしまうのに、マイルスはフルオーケストラをバックに我が物顔でトランペットを吹いているようにしか、その時の僕には聞こえなかったのでした。
というわけで、ずーっと、ずーっと、この「Kind of Blue」と「Skeches of Spain」の間にあるものはなんなのかが心のどこかに引っかかっていたのでした。

それが、最近、CDで買い直したこのレコードを聴いていて嬉しい驚きがありました。以前は全く聞こえていなかったひとつひとつの音が耳に届いてくる。そして、ひとつひとつの音の粒々がきらきらひかりながら「すーっと」ストレートに身体にしみ込んでくるのでした。むかし聞いて感じたような、なにもマイルスは偉そうにふんぞり返ってフルオーケストラをバックに吹いている、そんなわけではないのだと、やっと理解したその瞬間です。そこにあったのは、オーケストラとマイルスが紡ぎ出す一粒一粒の音が、絶妙なバランスでひとつの空間を構築している姿でした。
ギル・エヴァンスの編曲もすごいのだろうけれども、その編曲された音楽空間を解釈するマイルスのはっきりとした姿勢がそこにはちゃんとあって、それはマイルスの生き方、哲学そのものだと思うんですね。それがちゃんと音になっている。それは「Kindof Blue」も同じなわけです。それゆえに、「Skeches of Spain」に僕は「Kind of Blue」とは何から変わらないマイルスの姿を発見できたのでした。

もちろん少人数編成のコンボでのジャズと、こういったフルオーケストラのジャズが、同じ世界として語られるわけはないのです。でも、なぜかマイルスの場合には、これらのまったく違っているはずの世界が「マイルス・デイヴィス」としてひとつの世界になっているのですね。これが、やはりマイルスのすごいところなんでしょう。

北風が、ピューとほほをかすめて過ぎてゆく、そんな夕暮れ。
iPodにいれた「Skeches of Spain」を聞きながら、肩をすくめて歩いていると
なんだか、とっても小さな幸せを見つけたような気分になります。
それは、ひとりひとりの人間がそれぞれ小さな灯を灯している姿が、ひとつひとつかさなっていって大きな炎になっている姿がそこにはあるからだと思いました。
それはマイルスの目指していた理想的な世界なのかもしれません。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2004年12月25日 16:30

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コメント

高校生で「Round About Midnight」とは早熟ですね。
私なんか、精々、ディーブ・ブルーベックのテイク・ファイブを聴いたことがあるくらいでした。もちろんランドセル背負ってビルエバンスを聴きに行ったりはしてません。

投稿者 iGa : 2004年12月25日 18:39

iGaさん こんにちは
ランドセルしょってビルエヴァンスでなかったのはとても残念です。
http://karakara.pepper.jp/archives/000410.html
うーん、本当に残念だあ。

ところで、iGaさんは行きつけのレコードやさんというのはありませんでしたか?
店員さんと仲よくなって、レコードを買うならそのお店、っていうやつです。
僕にはそういうレコードやさんがありました。
ひまがあれば、レコードを買うでもなく、そのお店に入りびたっていた記憶があります。会いに行っていたのはそこの店長さん。そのお店はとても小さかったのでそんなことしていてもよかったのでしょうね。
ある日、僕はなんだかジャズという音楽が気になってどうしても聴いてみたくなりました。それで、その店長さんに相談してみたわけです。またくわからない世界ですから、どれを聴いたら良いのか、って。

「ジャズっていってもいろいろあるからね。」
「そうですね、僕も何にも知らないから年代順に聴いてみたいですね。でもスイングとかディキシーはいいや。」
そしたら、その店長さんは僕に
「古川君はそうだな。これもっていきなよ」と
ミントンハウスのチャーリー・クリスチャンを手渡してくれたのでした。
高校生でチャーリー・クリスチャンというのも、今から考えるとそうとうなものですが、そんなわけで僕のジャズの勉強が始まったのでした。
「Round About Midnight」は、そうした流れの中で推薦してもらった
3枚目のレコードだったと記憶しています。
2枚目はチャーリー・パーカーとディジー・ガレスピー。
ギルド、ミュージッククラフト原盤の廉価版でしたね。
最近、サヴォイ時代のパーカーのコンプリート4枚組というのを買ってきたら
このギルド、ミュージッククラフトの録音が入っていてびっくりしました。
その頃聴いたジャズのレコードは、身体に染みついている感じがします。

投稿者 fuRu : 2004年12月25日 19:13

僕はレコード屋はあっちこっちの店に行きますね。高木事務所が京橋に在った頃は、昼休みに銀座のヤマハまで輸入盤を求めによく行きました。チックコリアやキースジャレットのピアノソロなんかのECM原盤は最初は輸入盤だけで、銀座のヤマハに一番最初に並べられた。他には新宿西口のオザワレコード、ここは植草甚一の御立ち寄りスポットでした。高木事務所が青山に移ってから、骨董通りの傳八(Be-eater参照)の向かいに在った伝説のレコード屋・パイドパイパーハウスにもよく行きました。ここはロックがメインでジャズ、現代音楽、ミニマムミュージック、それに日本のモノ(ティン・パン・アレーとか)も置いてあった。因みに紙袋のデザインはガロ系漫画家・鈴木コージだった。ここでフィリップ・グラスのミニマムミュージックを買ったとおもう。
パイドパイパーハウスを検索したらこんな対談が、、
http://www.usen-cs.com/special/

投稿者 iGa : 2004年12月26日 11:58

iGaさん
萩原健太さんとバラガンさんの対談、おもしろかったです。
小さな輸入レコードやさんがあったらかこその音楽シーンというのがいいですね。
僕は東京に出てきてからはいろいろなレコードやさんにゆくようになって
行きつけのお店はなくなりました。東京のレコードやさんでは、なかなか手に入らない輸入盤を探し歩いていました。デヴィッド・マレイとジェームス・ブラッド・ウルマーの「No Wave」とか、見つけた時は嬉しかった。ディスクユニオンの輸入盤でした。その頃はすでに輸入盤は安くて手に入りやすかった。時代が違いますねー。
ECMも昔の録音もふくめて国内盤がどんどん発売されていました。
植草甚一さんについては、むかし古本屋で買った「ジャズの前衛と黒人達」という本を読み返しています。植草さんのエッセイを読むと「リアルタイム」ということがひしひしと伝わってきます。新年早々にこ植草さんのこの本のエントリーをアップしたいと思っています。

投稿者 fuRu : 2004年12月26日 12:40

そういえば、昔はNHK-FMでジャズの啓蒙的な番組が週に一回あってそれをよく聴いてました。青木啓、岩浪洋三、児山紀芳、油井正一の評論家諸氏が交代で得意分野の蘊蓄を語ってました。

投稿者 iGa : 2004年12月26日 16:26

そのレコードやさんの店長さんは、物腰は柔らかかったのですが意見がはっきりした人で
岩浪洋三○、油井正一×、でした。
他人の影響を受けやすい高校生の僕は岩浪洋三さんの本はよく読みました。
iGaさんのいうFMの番組は僕も聴いていた記憶があります。
担当が児山紀芳さんだったときだったかな。
マイルスの「天国への七つの階段」を初めて聴きました。
ピアノがどうのとか言っていた記憶がかすかにあって
今思えばヴィクター・フェルドマンの事で、作曲はしたのだけれども演奏できなかったというお話だったと思います。
僕の頃もラジオが全盛でした。ラジオ全盛の最後の時代かもしれません。今の若い人はラジオにかじりつくなんてことはあるんでしょうかね?

投稿者 fuRu : 2004年12月26日 17:59

わたしも、このアルバムを初めて聴いたときは「おや?」って感じがしました。「ポギー&ベス」も「マイルス・アヘッド」、「クワイエット・ナイツ」も、どこかで「おや?」を感じて、なかなか針を落としにくかった憶えがあります。(それでも、当時は「クワイエット・ナイツ」がいちばん気に入ってたでしょうか)
でも、歳のせい(?)かはわかりませんが、その後、ジワジワと聴く機会が増えてきました。そして、「The Complete Columbia Studio Recording/Miles Davis-Gil Evans」(SRCS7945-50)が出たとき、高価だったにもかかわらず手に入れたのですが、以来、けっこう針・・・じゃなくてレーザーをあてています。なんというのでしょう、独特の構築美とハーモニズムと、音色が心地よく感じるようになりました。わたし、日本人のご多聞に漏れずスパニッシュ・モードは好きですので、夏が終わったあたりに聴くとたまりません。

投稿者 Chichiko Papa : 2004年12月30日 10:51

マイルスフアンのChinchiko papaさん こんにちは
>夏が終わったあたりに聴くとたまりません
僕は北風に吹かれながら聞いていて、結構よかったです。
冬場も暖房で暖まった部屋で聞く、というのも良いかも、と思っています。

投稿者 fuRu : 2004年12月31日 01:05