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2005年03月07日

「木とつきあう智恵」--エルヴィン・トーマ

[books ,c-森林をいかす家づくり--moriiki ]

「木とつきあう智恵」
著:エルヴィン・トーマ 訳:宮下智恵子
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オーストリアで営林署員を務められ、現在、製材業(トーマ社)を営んでおられる、エルヴィン・トーマさんが1996年に書かれた本。
トーマさんは、冬期の新月の直前に伐採された木を使うということで有名だが、本書では、もっと基本的な、森と木材と人間の関係についてわかりやすく書かれている。

さて、本書の論旨だが、

A、森の恵みである樹木を有効に利用するためには
・樹木の伐採時期
・伐採された丸太の貯蔵方法
・木材の乾燥方法
・製材や加工の方法
が大切であるということ。
そして、これらのひとつでも守られない場合には木材は有効に利用出来ないし、
逆に、これらを守った木材を使った家や製品は何百年も使い続ける事ができるということ。

B、木材こそが人間にストレスを与えず、身心共に健康に保つ事に貢献出来る材料であること。

この二つを軸にしている。

では、僕らを取り囲む社会でこの本の論旨はどう受け止められるだろうか?

Bについては、木を活かしたデザインが広く求められている現状が、それを端的に表しているだろう。そして、今の現状で、木を使うデザインはそれほど困難な道に遭遇していない。塗装なども十分に人間の健康に配慮されたものが出回っているし、傷がつきやすいなどの木材の欠点も、多くの人に理解され、逆に魅力としてもとらえられ始めている。あとは、素敵なデザインを生み出すだけだ。

Aについてはどうだろうか?
この本には、皆伐と択伐についてはふれられていないが、それはトーマ氏の活躍しているオーストリアでは択伐があたりまえで、皆伐なんて言うことがありえないからだろう。本書で、森の中に分け入って切る木を選ぶというくだりがあるが、これは択伐をやっているということだ。
(択伐については以前の記事「森林をいかす家づくり-1」「森林をいかす家づくり-2」参照)

ここでは、先に挙げた四つの項目のうち「伐採時期」と「乾燥」についてとりあげてみよう。

というわけで、本書の最も特徴的なことである、伐採時期についてであるが
これは「新月直前の特定の日に伐採した木が極めて良質の木材になる」としている。
海水面を何mも上下させる月の影響力が、我々の住んでいる世界にどのような効果を与えているのかは計り知れないと思う。その力が樹木の中の水分やその他のものに影響を与えないと考えるほうがおかしい。科学的根拠はいまのところないようだが、迷信だとか非科学的だとか批難するべきではないと思う。

次に、木材を使う時に、最も難しいことの一つである木材の乾燥について。
木材は切られる直前まで、樹木として生命活動をしていたわけで、内部に大量の水分を含んでいる。木材として切られるとすぐにこの水分は抜け始める。この水分が抜ける過程で、木材は収縮や変形を起こす。だから、十分に乾燥させた木材を使わないとさまざまなトラブルが起こる。
古来から木材の乾燥は自然に乾燥させる天然乾燥が一般的だったが、天然乾燥では木材の含水率が日本の場合には20%くらいまでは下がる。しかし、冷暖房を効かせた家では木材の含水率はさらに下がって5%なんて言う事も珍しくないことが知られている。だから、天然乾燥で20%になった木材は、それが建物内部で5%まで乾燥するわけで、その過程でさまざまなトラブルが、やはり発生してしまうのだ。そのために、現在では天然乾燥に頼るというよりも、石油を炊いた高温の釜などに木材を入れて強制的に乾燥させる人工乾燥が主流になっている。この人工乾燥が問題で、木材という生き物の含水率の個体差や、一本の丸太でも内部と外部での含水率の差が大きいなどの条件の難しさ、急激に乾燥させると割れてしまうというなどの問題があり、いまだに決定的な方法がない。
驚くべき事に、先の新月伐採の木材は、こうした木材の乾燥の問題がほとんどないというのだ。これが本当だとしたら、それはすごい事だと思った。

最後にエルヴィン・トーマが推奨する木材の伐採日をあげておこう。

2005年12月11日、12日
2006年12月20日
2007年1月17日〜19日、12月29日〜31日

これだけ?そう、これだけである。
もちろん、次点の候補日もあるに違いないが、これだけ期間を限定してしまう事がどういう事なのか、いろいろ考えさせられてしまう。

<蛇足>
○「というわけで、トーマ社の提供する木材はこれほどすばらしいんですよ」というような書き方がされているところが何ヶ所かあった。それを悪いとは言わないが、ちょっと興ざめには違いない。
○新月伐採については、NPO法人『新月の木国際協会』が実践的な活動をされている。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年03月07日 00:00

コメント

この本の購読、先を越されました。
おかげで内容を把握できましたが、最後が気になりますね。

週末に御影堂の屋根修復工事のTV番組を見ました。
過去の無理な修復がたたり300年ものの檜の材が全ての方向に割れていました。修復には、1cmの間隔に12本くらいの年輪を刻む檜が必要だと担当者は言ってましたが、熊野の木の手配師たちは「日本に1000本あるかどうか?」と苦笑い。今回は台湾に頼りたくないとの談。
番組で紹介していた檜は北斜面に生えたもので、伐採後、葉枯らし乾燥していました。
商売のレベルではない国宝の修復でも、国の無計画さが露呈した話でした。
理想的なことはビジネスにはならない。
トーマ社のように理想をビジネスの売りにすることもおかしいですね。

投稿者 栗田伸一 : 2005年03月07日 14:02

栗田さん こんにちは
木をあつかう事の難しさは、日本の大工さんは良く知っていたはずです。
いまでも、自分で木材の買い付けを行って、自分のところの資材置き場に放置しながら、時間の経過と共にそれぞれの木の変化を見ている大工さんがいます。変化を見ながら、この木はここに使おうとか、ここには使えないとか、そういう判断をしているんですね。
大工さんは、そうしたゆったりとした時間の中で、木と対峙し、木と付き合い続けてきたんですね。
ところが、その大工さんから、ゆったりとした時間がうばわれようとしています。
栗田さんがコメントしてくださったような木を使う事をめぐる根本的な矛盾の源泉はそのようなゆったりとした「時間」とどう対峙するのか、そのことにどう価値を見出してゆくのか、という事につきるのだと思っています。

投稿者 fuRu : 2005年03月07日 14:26

古川さんはたくさん本を読んでいらっしゃるのですね。
新月の木のことは、前に作品のタイトルを考えて「月」を検索している時に、偶然知りました。
神秘的でとても不思議だけどそういうことはあるのだろう、と思っていました。
竹も切る時期があるらしいですよね。
確か、旧暦で秋分の日くらいで、8月だったか、言い伝えだと、二八らしいんですが、どうなんでしょうね。
でも、昔からの言い伝えってすごいですよね。
きっと長い間の経験や体験に基づいているんだろうな、と思いました。

今日の東京新聞に、多摩の、「そまうどの連」の記事がでていました。

投稿者 reirei : 2005年03月07日 18:39

reireiさん こんにちは
>多摩の、「そまうどの連」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050307/ftu_____kur_____000.shtml
勉強不足で知りませんでした。
でも、記事中に出てくる「東京の木で家を造る会」も事務局の稲木清貴さんも知っています。
記事中にある
>既存の森林組合は硬直化している。
という言葉。まさにそうかもしれませんね。

投稿者 fuRu : 2005年03月08日 09:59