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2005年09月15日

Consecration---Bill Evans

[ジャズ--jazz ]

Consecration----Bill Evans
1980年8月31日から9月7日 録音
→現在廃盤

1980年9月15日に他界する直前の演奏。キーストンコーナーでのライブ。
1989年にアルファレコードのジャズ部門としてあったAlfa Jazzから2枚組みで発売された。
実は、20代後半にこのレコードを聴くまで、僕はビルエヴァンスが大変苦手だった。

当時、僕は会社勤めで神保町に通っていたが
その神保町にある「ジャニス」というレンタルレコード屋さんで
この2枚組みをみつけて、なぜか気になって手に取ったのだ。

ジャズを聴き始めた頃、僕が好んだのは、かなりハードな演奏だった。
ハードというのは、ビートが効いているとか、フリーキーな演奏のことだ。
で、当時一世を風靡していたロフト派と言われる人たちに僕は痺れていた。
だから、ビル・エヴァンスを聴いても、なんだかナヨナヨしていてはっきりしない音楽だな、としか感じなかった。
それが、このレコードを聴いて、目からうろこ、いやいや耳からうろこ(耳あかみたいですね)が落ちたのだ。
それくらい、このレコードの演奏は激しく僕に迫ってきた。
それまで、僕がイメージしていた、いかなる「Bill Evans」とも違うものがそこにあった。
いやいや、大げさかもしれないが、僕がそれまでに聴いていたいかなる「Jazz」とも世界を異にしたものが、そこにあったのだ。

それ以来、ビルエヴァンスのラストトリオのCDを見付けるたびに買っている。
残念ながらラストトリオは、レコードとして発売されることを前提とした録音は
1980年6月のヴィレッジバンガードのライブしか存在しない。
名盤と言われるパリ・コンサート(Vol.1--Vol.2)もラジオ用の録音だ。
ましてや、スタジオでの音源は一切発見されていない。

ビルのラストトリオに魅せられている人は、少なからずいるようで
信じられないような音質のものまではCDとなって日本のレコード屋さんの棚にも並んでいる。

現在、当初発売された2枚組みは廃盤になり、アルファレコードも無くなってしまったが、8枚組みのCDボックスセットX2、つまりは16枚のCDとして、キーストンコーナーでの演奏のほとんどを聴くことが出来る。

○Last Waltz: The Final Recordings Live→amazon
○Consecration→amazon

16枚のCD。収録時間はどのくらいだろう。18時間以上はあると思う。

いま、冷静になってこれらのCDに耳を傾ければ
かつての、ひとつひとつの音を神経質なまでに大切にしてきたビルの姿はない。
それは、ビルに心引かれて、彼のレコードをほぼすべての時代にわたり聴いてきた後だから見えてくるものでもある。
ここには、酒とドラッグでぼろぼろになったビルがいる。

この頃すでに、彼の手は肝硬変の悪化でむくんでいて
ピアノの鍵盤がどうして叩けるのだろうと言われるほどだったという。
それほどの身体で、ピアノに向かった彼にとって
ジャズとはなんだったのか、ピアノとはなんだったのか。

中山康樹の「ビル・エヴァンスについてのいくつかの事柄」を読めば
いかに、ビル・エヴァンスであろうとも、
決して恵まれた存在ではなかったことがわかる。

ラストトリオがスタジオでの録音を見合わせたのも
ピアノトリオというフォーマットが商業的にかんばしくないという判断だったということ。
現在のキースジャレットのスタンダードトリオのことや
澤野工房で発掘されたピアノトリオのCDがどんどん売れていることからすれば、
いささか信じられないようでもある。
でも、そうだったのだ。

存命中に一度たりとも恵まれることなく
日々の生活に追われ、ピアノに向かっていたビル。

それゆえにこそ、彼の音楽には彼の生き様が、迷いが、喜びが刻まれているように思う。
ピアノに向かわずにはいれなかった彼の人生。

ビルにとって即興演奏とは何だったのか?

そして、ふたたび、晩年の彼の演奏を聴くたびに
僕らの前に立ち現れてくる、一切の抽象性を排除した音。

そこにこそ、即興音楽を名指しで聴くことの必然性、
ビルエヴァンスとデレクベイリーが並べて語られる地平があるのだ。

1980年9月15日。午後3時半。永眠。

ビルの命日に合掌。

○この音源の発売などに関しては、日本盤のライナーノートを書いておられる高木宏真氏のホームページがあって、そのなかの「CDのライナー」が参考になる。また、ジャズ批評ブックス「定本 ビルエヴァンス」にも詳しい。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年09月15日 15:30

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コメント

Alfa Jazzのこの2枚組み持っているけれど、買った時は何で?アルファレコードがジャズを?という感じでしたね。
そういえば大江健三郎は晩年の麻薬でボロボロになったバド・パウエルを演奏を聴いた数少ない日本人の一人だった。
ビル・エヴァンスもバド・パウエルもピアノを弾くことが彼らの最優先の存在理由だったのでしょうね。

投稿者 iGa : 2005年09月17日 12:14

iGaさん こんにちは
>ピアノを弾くことが彼らの最優先の存在理由
ほんと、そうだと思います。
そして、僕は、自分の存在理由、なんてことを考えてしまいます。
やっぱり、芸道に精進することなのかしら。

投稿者 fuRu : 2005年09月17日 17:03