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2006年12月13日

「労働ダンピング」---中野麻美

[books ]

「労働ダンピング」
著:中野麻美 岩波新書1038
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今年の7月にNHKで放送された「ワークングプア」は大変な反響だったそうだ。
私もブログでこの番組のことを取り上げたが、その記事には放送直後には多くのアクセスがあり、放送後も、毎月々々、まとまったアクセスを得ている。世間の関心は高い。
そして、NHKはその反響の大きさから、先日「ワーキングプア 2」という番組を放送した。
そうした「ワーキングプア」の問題とその背景は、この本の中で詳しく論じられている。
労働の流動化とそれを促した政府の政策。
そのなかで我々はどうしたらいいのか。
そして、私は、この本に出てくる「ホワイトカラー・エグゼンプション」という言葉から、労働とは何かということに思いをめぐらせた。

従来の労働基準法などで守られる労働者の労働というものは、超過時間(残業)に対する報酬であるとか、休みの確保というような、時間が基準となっているものだった。
しかし、一方、労働には質というものがある。成果として質の向上を目指すような仕事の場合、時間をエンドレスでかけることも必要とされる。そのような場合に、いままでの労働時間によって労働を管理・規制するのではなく、成果によって報酬が判断されるという雇用形態が必要になってくる。
アメリカではすでに、こうした労働時間規制の適用から除外される雇用形態がすでにあり、それを「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」という。
この制度を日本にも導入しようという動きが近年活発になっているというのだ。

実は、とあらたまることではないのだが、私の仕事である建築設計も成果として質を求められる仕事である。一定水準以上の質に達しない場合にはエンドレスに時間を使う。さらに、自分の仕事の質をより以上のものにするために時間を使う。もちろん、予想外に短い時間で達成できることもあるし、思いのほか難産の時も多い。だから、かける時間と労働の成果は必ずしも一致しない。逆に言うと、8時間働いたからといって、クライアントにその分の報酬を請求するという仕事ではない。
こういう仕事は一人でやっている分にはなんの問題もない。「好きでやっています」とそれだけである。ここに、雇用関係が発生すると問題は複雑になる。
本書でも、108頁で設計事務所勤務のJさんの、仕事を極めるというあまりに体調を壊し倒れてしまったという例をあげている。

労働を依頼する側と労働を依頼される側の、労使の関係をどうするか。

以前から、私は、労使の関係が対立するものとして扱われていることに大きな違和感を持っていた。
「搾取」ということも確かにあるのかもしれない。働いただけの報酬を得ることが出来ない、与えられないという悪しき関係も世の中に存在するのだろう。逆に、成果を上げずに拘束された時間だけで報酬を要求するという輩もこの世の中にはいる。そのようなことでお互いに不信感がうまれ、それが労使の関係を奇っ怪なものにしていると思う。

しかし、そもそも問題はそういうことではなくて、そこで労働への愛について語られていないことではないかと思う。

働くことが楽しいかどうか。自分の仕事に愛情を感じることが出来るかどうか。それがなくては、仕事そのものが生きてこないだろう。
でも、労働への愛を盾にとって、人を働かせているというようなこともあるんだろうなあ。
逆に、愛情を注げる仕事に就けた人は幸せなのだ、恵まれているのだ、というようなことも言われてしまうんだろうなあ。
と、そういうことだって、労使の信頼関係が出来ていれば問題にもならないことではないだろうか。

「労働ダンピング」という「労働の流動化」でもっとも問題だと思うのは、そこには労使の信頼関係が欠落してしまう可能性があることではないだろうか。そこには労働を都合の良い使い捨てのものとして企業の利益拡大に利用しようという力が働いている。これが、高度資本主義経済の大きなうねりのような力だ。しかし、それでは労働が生きてこない。人が資本の下に押しつぶされてしまう。それは、企業のあるべき姿とは思えない。

今一度、労働への愛と、それを支える労使の信頼関係をはぐくめるような社会の必要性を、みなで考える必要があるのだと思う。

NHKの番組とこの本を読んで、そのことを強く感じた。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2006年12月13日 11:20

コメント

読んだばかりの「中国が世界をメチャクチャにする」にも労働問題が描かれています。
不当なまでに安価な労働力が中国から流入してきた結果、根こそぎ形骸化するヨーロッパの地場産業。
中国からの労働者も借金と安価な賃金で浮上できず、地元の労働者は職を失い、誰も幸福にならないシステム。

国内の問題だけではなく、グローバル化したからこそバランスが壊れていく、
そんな側面もあるのだと感じました。
中国を非難する形で書かれた本ではなく、淡々と描かれているだけに恐ろしいです。

投稿者 りりこ : 2006年12月13日 12:56

りりこさんもおおっしゃるとおり「誰も幸福にならないシステム」ですよね。
ほんとうに恐ろしいです。
「自立的に働く」ことを建前に上げながら、ニートを増やすばかり。
こうした矛盾は、いったい何なんでしょうかね。

投稿者 fuRu : 2006年12月13日 14:32