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2008年04月25日

WORKIN'---Miles Davis

[ジャズ--jazz ]

WORKIN'---Miles Davis
1956年5月11日、10月26日録音
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今、菊地成孔のマイルス本を読んでいるところなのですが、マイルスのことが時系列で書かれているので読み進めながら同時期のマイルスの音楽も聞き直してみたりしています。
そうすると、いろいろ発見することも多いですね。

言葉が音楽を対象化する→新たな理解

という具合に菊地成孔さんの本を読ませていただいております。

いわゆるマラソンセッションが行われたのが1956年。二日間で録音されたトラックが四枚のLPレコードになっています。どれもがとても有名なレコードで、ジャズを聴き始めた頃に手に入れて聴きましたが、その頃に私の耳には、コルトレーンの演奏がまどろっこしいというか、ぶっきらぼうに聴こえてダメでした。確かにマイルスのミュート音にしびれましたのでレコードとしては何度も針を下ろしたのですが、コルトレーンのソロになると針を上げたりしていたのを覚えています。

菊地氏の本はマイルスの本です。チャーリーパーカーからマイルスへという流れの記述が大変興味深い。菊地氏の言葉を借りれば「コーダル」な即興から「モーダル」な即興へ、ということになるのですが、音楽を和声として縦に割って理解して、和声の分析的展開で即興を演奏する「コーダル」に対して、メロディを軸に横に展開してゆく「モーダル」ということになるでしょうか。
チャーリーパーカーたちが生み出した「ビ・バップ」は「コーダル」的世界の典型で、マイルスは体質的に「コーダル」な世界に適合出来なかった。もちろん、「モーダル」という考え方は昔からあってマイルスが発見したわけではないのですが、ジャズの即興演奏のなかで「モーダル」な展開を進めていったのはマイルスだということが出来ます。

「ビ・バップ」に代表される「コーダル」な即興は、いかに早く演奏出来るかなどの名人芸を競うような側面がありました。和声の順列組み合わせにいくつかのトーンを加え新鮮な響きを自慢するという側面もあったでしょう。それもまた、音楽性なんですが、マイルスはそこにメロディ、つまりは音の構成美をもちこもうとした。音数の少ないマイルスのソロは即興といえども、美しいメロディを奏でている。特にミュートを付けた演奏ではそれが顕著であり、いわゆるジャズの即興とは一線を画していた。そういうことが、この頃の演奏を聞き直すとよりいっそうよく分かってきます。

そのマイルスが自分のバンドのメンバーにコルトレーンを選んだ、ということなんですね。実はロリンズに来てもらいたかったのだけれども、いろいろあって無理だったので仕方なく、というような話がまことしやかに語られていますが、「モーダル」な即興演奏という視点からあらためてコルトレーンのこの時の演奏を聴くと、実に骨格のしっかりした演奏をしていることがわかります。骨格のしっかりしたというのは「構成美をもった」ということです。そして、骨格というのは時間軸に対して発生するものです。「モーダル」な視点がなければ発生しない美しさなんですね。

コルトレーンは、この後、「モーダル」な骨格をしっかり持ちながら、とてつもない世界に突入してゆくわけですが、最初から骨格のしっかりした演奏をしようという強い意識があったということが、今更ながらに分かったのでした。

演奏の骨格、物語の骨格、そして、私の分野で言えば空間の骨格。
どれもとても大切で、重要なものなのです。

また、即興でありながら骨格のしっかりしたものを作り上げるということはどういうことだろうか、と考えます。譜面にして推敲をかさねるという作り方ではなく、即興で骨格をつくりあげるということ。ものを作り出す時の計画性ということ。即興と計画の関係。相反するものではないということ。とても興味深いものがここには潜んでいると思っています。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2008年04月25日 10:15

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コメント

こんにちは。私もMilesが好きです。

この時代の録音は昔ジャズ喫茶で良く聞いたので、
レコードもCDも持っていないのが何となく変ですが。
最近でもRoundMidnightなどは時々聞きます。
On The CornerなどのMilesのロック系の方が好きです。

この本は読んでいないですが、菊地さんも面白いですね。
”東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編”は、
感激くらいに素晴らしいジャズ史でした。

中山さん訳のマイルス自叙伝も、沢山のミュージシャンが出てきて
面白かったですよ。お薦めです。

投稿者 maida01 : 2008年04月26日 08:53

maida01 さま
私もエレクトリックマイルス、大好きですよ。
50年代のマイルスよりもぜんぜん好きなんですが、今回はその50年代マイルス再発見ということです。
残念ながら自伝は読んでいないのですが、いつかは読んでみたいですね。

投稿者 fuRu : 2008年04月27日 09:37