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2009年01月22日

囲い込みとセルフビルド

[a-家づくりについて---house_making ]

セルフビルドについての本を書きたいと思っていて、
出版社の方にも相談すると、大変面白がってくれているのですが
最後は、売れるかな、売れないかな、誰が買うかな、という話になります。
たくさん売れた方が良いわけですし、売れなかったら出版社に赤字をもたらします。
赤字はまずいですね。ですから、機会ある度に、いろいろな方の意見を聞いています。

セルフビルド本は売れるでしょうか?
私はセルフビルドのノウハウは「商品」になるかと問うてみます。

まずは、地域の工務店にとって「商品」とは何だろうかということ。

それは「家」でしょう、と、言われる方がいるかと思いますが、それは違います。「家」をつくることは確かですが、「商品」とは競争力のあるもののこと。ただの「家」では仕事を依頼されない。そこにはなにか別の「商品」としてのものがあるはずです。

昔々の一人親方の大工の棟梁ならば、「商品」は実績に裏付けられた「技術力」ということになります。今でも、町場の工務店が「商品」として打ち出しているのは「技術力」。そして、地域に根ざしているという「安心感」。この二つが小さな町場の工務店にとっての「商品」ですね。
実はこの「商品」は工務店にとっての「資本」でもあります。特に「技術力」は工務店にとってかけがえのない「資本」です。他の会社のもっていない「技術力」を手に入れようと、みな必至で考えたり勉強したりしています。そうして手に入れた「技術力」は、他の人に見つからないように大切に大切に囲い込むわけです。他の会社との競争力の源であるわけですから、苦労して手に入れた「技術力」という「資本」を囲い込むのは当然ですね。「資本」はお金を生みますから会社の生き死にに大きく関わります。

とすれば、家づくりの「技術力」が、もし、誰にでも出来るものとしてオープンになってしまうとしたら、それはとても耐えがたいものとして、町場の工務店の目に映るに違いありません。
つまり、工務店は「技術力」の囲い込みを解放してしまうような「セルフビルド」に対してとても警戒しているのです。

セルフビルドをめざす一般ユーザーはそれほどたくさんいるわけではありませんが、少なくないと思います。ただし、セルフビルド本を誰を対象に書いて売るか、という問い掛けに対して、やはりたくさん売るためには、セルフビルドに興味のあるユーザーだけを対象にしていたのではそれほど売れることはない。とすれば、プロにも買ってもらわないと採算が取れない。
プロとは、設計事務所と工務店です。設計事務所はともかく、圧倒的に数の多い工務店がセルフビルドの本を買うか、ということになりますが、少なくとも今の状況では、やはりセルフビルド本は警戒の対象にはなって、注目されるでしょうけれども、それほど売れないのかな、ということになってしまいます。

先程「技術力」という「資本」について書きましたが、もうひとつ「情報」という「資本」があることについてふれておかないといけません。「情報」とは、資材の仕入れ先のことなど流通のノウハウであり、職人さんに実際に支払う工賃です。
どこよりも安い仕入れ先はだれにも内緒にしておきたいものです。
工賃が安くて良く働いてくれる職人さんは人には紹介したくないものです。
工務店は「情報」という「資本」も囲い込んでおきたいと思っています。

このように、実は「技術」と「情報」の囲い込みによって成り立っているのが家づくりの世界、家づくりの経済学なのですね。そして、セルフビルドとは「技術」と「情報」のフリーマーケット、囲い込みからの解放なのですから、もし、セルフビルドが市民権を得るとすれば、そこにはあたらし家づくりの経済学が、囲い込み不要の経済学が必要になるでしょう。その時、家づくりは新しい地平線をみることになるに違いないのです。そこにこそ、家づくりの理想があるのではないかと私は考えています。

そして、今、経済の大変革に伴い家づくりの構造にも大変革が起きようとしている時、新しい家づくりの経済学が、つまりは「セルフビルド」というキーワードで説かれる家づくりの新しい経済学が求められているのだと思います。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2009年01月22日 09:55

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コメント

ときどき、丹念に拝見しております。とても勉強になります。
なるほど、そうか。
私は囲い込まれそうな予感とともにハーフセルフビルドを目指しています。屋根までプロに頼んでその後自分で作ろうというタイプです。
施主は、どんな家にするかを設計士に相談し、どうやって作るかを大工等に頼むことになります。つまり、計画して実行するわけです。素人には、これらすべてにかかわることは、かなり大変です。実行の最初には施主も流通の壁にアタックすることになります。しかし、設計士がすぐできるセルフビルド、大工等がすぐできるセルフビルドの二つが揃えば、施主もセルフビルドでいけるかもと納得できると思うのです。流通は地域性をはずしやすいので、施主が突っ込みたくなるところです。また、施主は、大工にやり方を教わりながら作っていきたいと思っています。セルフビルダーは、不安を抱えながら作るので、その支えとなるものを探しているのです。支えは情報の公開、説明、指導、理解などだと思います。
立派な一棟より、工夫の三棟ぐらいのつもりで仕事を回したほうが、関連業者やそこに住む人は豊かになるかもしれません。住宅建てたら人生上がりじゃありませんから。
とりとめもなくぼやいてしまいました。すいません。

投稿者 クラッカーハズバ : 2009年01月22日 15:09

クラッカーハズバ さま
ようこそおいでくださいました。
今回書いたように、セルフビルドのおかれている社会的・産業的・経済的位置付けを考え分析することにも意味があると思うのですが、何よりも大切なことはは、どうやって実行するかです。やっちゃったが勝ちですし、考えるよりもとにかく身体を動かす方が大切。その経験からしか見えてこないことが多い。住宅業界的に見たセルフビルドの壁も、そうした行動からしか突き崩せないし、新しい地平も見えてこない。
クラッカーハズバ 様たちは、大きな一歩を踏み出されたのです。
陰ながら応援しておりますよ。

投稿者 fuRu : 2009年01月23日 09:46

fuRuさま
先日は土地の所有という広大なテーマに関するメッセージもいただき、ありがとうございました。
セルフビルドの本を書こうとしていらっしゃるとは存じませんでした。非常に興味深いものができると思います。楽しみです。
fuRuさんの在りよう、なさりたい事は、人間と生活に密着していて、本当に共感できます。

私たちは今、セルフビルド渦中、まっただなかで面白いところなんだけど、主人は作業に打ち込んでおり、私はその後方支援と本業の仕事で明け暮れ、今はそれらすべてと体力とのバランスをとることに、精力のすべてが使い果たされている感じです。これが終わって少し落ち着いた時には、いろんなことをもっと冷静に、客観的に把握できるのかなと思っています。

投稿者 Yukiko Hori : 2009年01月23日 12:14

Yukiko Horiさま
コメントありがとうございます。
セルフビルドの一番大変なことは肉体的に消耗することです。
体力が消耗すると知恵まですり減ってしまうものです。
セルフビルドはそういう意味では体力の消耗との戦いとも言えます。
特に、この時期の現場作業は身体が心から冷えてまいってしまいますね。
その大変な環境で事故を起こさず正確な作業をするということは本当に大変なことなんですよね。

上棟を迎えた頃、一度お邪魔させていただきたいと思っております。
その時はよろしくお願いいたします。

投稿者 fuRu : 2009年01月23日 13:25

ご無沙汰しております。BBQです。セルフビルドの本を出版されるようでしたらご一報ください。購入いたします。

アメリカあたりでは10%弱の人がセルフビルド(またはハーフビルド)をしていると聞いたことがあります。アメリカは2×4が主流で、規格部材の使用率が高いなどの違いが作用しているのかもしれませんが。日本でもセルフないしハーフビルドがもっと広がってもいいのではないかと常日頃思っています。fuRuさんがセルフビルドを広めるきっかけになる本を出版されればこんなうれしいことはないです。

私も恥ずかしながら外構はこつこつセルフでやっております。が、日曜大工は好きでも左官関係は何分はじめて。モルタルは耳たぶぐらいの柔らかさに練りましょうなんて、本には書いてありますが、これがなかなか難しい。水を徐々に足していくのですが、ちょっと多く足すとある時点からシャブシャブのモルタルになってしまう。(笑)

そこでもしご出版されるのでしたら、素人の作業映像とプロの作業映像を対比したDVDなんかも付録でつけてみてはいかがでしょうか? 画像でしかだせない説得力があるように思います。(勿論本にも自分のペースで何度も読み返すことができるというメリットもあると思ってますが。)

DVDがコストがかかるようなら、アトリエフルカワのHPに無料のダウンロード(ストリーミング)できるコーナーを作っておき、本の中ではダウンロードできるアドレスを記載しておくなんてこともできるかも。セルフビルドは実作業を伴うものなので、ぜひぜひメディアミックス的な企画になってくれれば嬉しいな、なんて勝手に期待しています。


投稿者 BBQ : 2009年01月26日 01:15

BBQさま
コメントありがとうございます。
さっそくのご購入宣言、大変嬉しく心強いですねえ。

さて、映像も含めたメディアミックス、とても良いと思います。
さっそく出版社の担当の方に打診してみます。
ただ、いろいろなことがあって、私の作業がおそいのもあるんですが
出るとしたら来年になってしまうかもしれません。
いましばらくお待ちください。

投稿者 fuRu : 2009年01月26日 10:37