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2009年03月17日

「建築とモノ世界をつなぐ」---松村秀一

[a-家づくりについて---house_making ,books ]

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「建築とモノ世界をつなぐ」
著:松村秀一 出版:彰国社
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建築設計者のための本。
建築設計者の職能を問う本。
建築設計者は産業社会といかにつき合うか?
結論は「ブリッジング」。

建築家剣持昤が主来の設計者像として予言した「選択的設計者」と「支配的設計者」の2分類から論を展開するところが面白い。
与えられた製品をアッセンブルするだけの「選択的設計者」と、生産機構や技術に精通して自ら部品の開発に関与する「支配的設計者」。
与えられた製品を選択するだけでは妥協を強いられることになるわけで「選択的設計者」はモノづくりから疎外されていることになる。モノづくりに本質的に関わることが出来ない設計者。本当にそれで良いのかという問いかけ。しかし、残念ながら現実的には現在の設計者の多くが「選択的設計者」のポジションを甘んじて受け入れている状況ではないか。
それはひとえに、設計者の職能として「支配的設計者」であることが重要視されてこなかったためではないか。
しかし、現代社会の高度情報化されたコミュニケーションを考えると「選択型/支配型」という二分法では語れないのではないか。この問題意識で本書は貫かれています。

この二分法を崩すための三つのスケッチ。

1、量産しない。職人による手仕事。ただし、全体を解く手段ではない。

2、量産を前提とし、選択者が開発の意思決定に関与するための受注規模をまとめる。

3、選択される部品の情報の存在形式を変える。「部品」単位の情報のやり取りを超えてゆく。仕様項目までも選択の対象とすることで選択者が開発に関与出来るようにする。

日本でのプレファブ住宅の歴史。
大衆消費者の欲望に従い、バリエーションが増えプロトタイプ化からは大きく道を外れた。

セキスイハイムM。無目的な箱。
誰でも自由に使える「無目的な箱」の可能性。

ジャン・プルーブ。
「建築家のオフィスの所在地が部材製造工場以外の場所にあることは考えられない。」
モノをつくるということの原点に返ったプルーブの発想が必要なのではないか。

日本の家づくりを支えている地域の工務店。
設計者は工務店と組むか、工務店になるかの選択を迫られる。
「工務店」でも「設計事務所」でもない、新しい業態が必要とされている。

地域性、方言、を取り込むこと。

スケルトン・インフィル SI。
可変性と多様性に対応。

地球規模の流通を否定できない現実。

設計者の戦術。地球規模の流通を把握する情報。大量の情報を使いこなすこと。

「住み手社会」と「作り手社会」が解離してしまっている現実。
この二つの社会をつなぐことが大切。
ここにこそ、建築設計者の職能が求められるのではないか。
これが「ブリッジング」。橋を渡すこと。

このように現実に即して、産業社会の中での建築設計社のポジションについて論じた本は今までなかったのではないでしょうか。
とても面白く、刺激的な本です。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2009年03月17日 10:15

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コメント

はい
M-1です
フレームはなんにでもなり得ます
部品は汎用品でどうにでもなります
すごいです

投稿者 (!!)。 : 2009年03月17日 18:47

(!!)。さま
M-1ユーザーさま
そういえば、あのフレームの活用を研究されていましたよね。
今こそ、その成果が実用面で生かされる時なのではないでしょうか。
この本を読んでいてそんなことが頭をよぎりました。

投稿者 fuRu : 2009年03月17日 18:54

面白そうな本ですね。設計者が単なるアッセンブラーに陥っていいの?
これは私が住宅新築を計画し出した時から思っていたことです。
『あらゆる芸術活動の最終目的は建築である』だったかな?
バウハウス宣言に刺激されて建築家を志した人も多いのでは?
個々の建築家は非力でも集団で氾濫する大量情報を精査して
うまく使いこなすことができれば、個々は其々の独創性に注力する。
家づくりの会にはそんな理想を求めていました。
木製サッシの防火テストがスタートしてちょっぴり期待しています。

投稿者 オジャマ虫・スズキ : 2009年03月18日 10:13

オジャマ虫・スズキさま
先日は、貴重なお話、ありがとうございました。
この本の面白いところは、アッセンブラーはアッセンブラーとして重要な役割があるのではと提案しているところです。
それが「ブリッッジング」、つまり橋渡し役ということなんです。
そして、「ブリッッジング」というのはまさに「家づくりの会」が
25年にわたりやり続けてきたことですよね。
その蓄積というものは他に代えがたいものだと思います。
その蓄積の延長線上に木製建具の可能性を探る活動があります。
私は、まだ所属して日が浅いのですが、その蓄積に少しでも貢献できればと思っております。

投稿者 fuRu : 2009年03月18日 11:56