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2009年07月29日

「住宅政策のどこが問題か」---平山洋介

[a-家づくりについて---house_making ,books ]

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「住宅政策のどこが問題か」
著:平山洋介 光文社新書396
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副題が「<持家社会>の次を展望する」です。
豊富なデータによる興味深い一冊です。
特に、興味深かったのは第2章で展開される、ジム・ケメニーの提唱する二つの住宅システムの類型による分析です。この類型は賃貸住宅をもとに考察されますが、それだけではなく、住宅の所有形態の全体像まで説明されます・
ジム・ケメニーは「デュアリズム」と「ユニタリズム」という二つの類型を、公営住宅を代表とする、社会システムとして提供される賃貸住宅(社会賃貸セクター)と、民間の賃貸住宅(民間賃貸セクター)の関係で提示しました。
「デュアリズム」は民間賃貸セクター中心に賃貸住宅の供給を考えてゆく政策で、社会賃貸セクターはそれを補うものとしてとらえられる。一方「ユニタリズム」は民間賃貸セクターと社会賃貸セクターの統合による賃貸住宅供給をはかります。

デュアリストの政府は持家取得に援助を集中させます。日本はデュアリストの政府です。家を所有した方が得である社会システムをつくってきました。その詳細は第1章で展開されます。一方、ユニタリストの政府は住宅所有の形態を持家に限定せず多様な形態を提供しようとします。
大きくわけると、デュアリズムの国は、イギリス、アイルランド、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアなど。ユニタリズムの国は、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、フランス、オランダ、スイス、オーストリアなど。当然、デュアリズムの国では持家の割合は高く、それにくらべてユタリズムの国では持家率は低い。

本書の論旨はいたって明快だと思います。
日本もデュアリズム政策を掲げて、それを標準的なライフスタイルとして、進むべき道として持家主義を通してきましたが、ライフスタイルの多様化に伴い、今までのようにはゆかなくなってきている。では、どうすればいいのか。ひとつはユニタリズムの国を見習うというのはどうだろうか、というのです。
住まいの所有形態の多様化を考えなくてはゆけない時が来ている。
このことを一言で「成長依存から分配へ」と本書の最後で表現しています。

住まいの所有形態の多様化。
そこには何か大きな可能性を感じます。
たとえば、スケルトンとインフィルという考え方が多様に展開する。
つくば方式のようにスケルトンに定期借地権を設定してインフィルを構築する。などなど。
我々設計者に求められるものも少しづつ変わってくるのではないかと思います。

というわけで、とても刺激的な本でした。
蛇足ながら、学術論文調の文章はお世辞にも読みやすいとは言えないのが難点です。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2009年07月29日 10:00

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住宅政策のどこが問題か (光文社新書)光文社 平山洋介 ユーザレビュー:漸く本物の住宅政策論 ...私はどうして持ち家に ...がっつりと住宅問題に ..... [続きを読む]

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コメント

かつては日本も明治時代はユニタリズムだった、という話しを、下山先生から聞いたような記憶があります。
その一例として夏目漱石は生涯貸家住まいだった!
ユニタリズムの社会で暮らす人々は、デュアリストの社会の人々より、精神的に豊かなんでしょうか?とても気になります。

投稿者 りぼん : 2009年07月29日 16:07

りぼんさま
日本がデュアリズムになったのは戦後ですね。経済復興を持家取得を盛り上げることでやってきたのです。
結局、デュアリストの人とユニタリストの人でどちらが幸せかという問いの答えはないのだと思います。ただし、デュアリストの社会は所有意識が強過ぎて、共有感に乏しい感じがします。ツール・ド・フランスを見ていて、その風景の豊かさに心を打たれましたが、フランスがユニタリストの国だから豊かな風景が残ったのだと思いました。

投稿者 fuRu : 2009年07月29日 17:24