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2009年11月06日

「建築する動物たち」---マイク・ハンセル

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「建築する動物たち」
著:マイク・ハンセル 訳:長野敬+赤松眞紀 発行:青土社
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人以外の動物が行う構築行為について分析することで
人間の構築行為について考える好著。
もっとも印象に残った言葉は「空間の記憶」。
「空間の記憶」によって構築行動を起こすのは人間だけではないのかと、この本は問いかけてくれているようです。
各章の内容をメモしておきます。

<第1章 つくり手たち>
動物たちが作る巣。あるいは罠。あるいは道具。生命が作る構築物。彼らは何のために作るのか?棲家、食物などの貯蔵所。罠とディスプレイ。動物の構築行動について本書の助走として紹介する。

<第2章 つくり手は世界を変える>
ウオンバットの巣。磁石シロアリの巨大なアリ塚。動物たちは生活環境をつくり上げている。構築行動によって風景を変えることもある。しかし、いたって機能的に。

<第3章 つくり手に脳はいらない>
材料の標準化と行動の単純化。スケールは自分の身体とその動き。動物たちは次の世代に構築技術を伝達するわけではないのにどうしてあのような巧妙な構築物が作れるのか?脳はいらないとは学習する必要なく構築行動が完遂するということ。

<第4章 ここの責任者は誰だ?>
巨大コロニーを形成するシロアリの巣。誰かが指示をしなくてはこのような巨大な構築物を協力して作り上げることは不可能ではないのか?人間とは違うやり方での構築行動。そのメカニズムについての考察。

<第5章 一つの巣から別の巣へ>
巣の進化について。ネオダーウィニズム的考察。巣作りとDNA。

幼虫時にバッタに寄生するハリガネムシの一種は成虫では水中で生活する。幼虫から成虫になる時にバッタの血液系に化学信号を放出し、バッタを錯乱状態にして水に飛び込ませる。(170頁)

<第6章 罠づくりに通じる二つの道>
罠を作る生物は人間と多数の無脊椎動物、たとえばクモ。クモの巣(罠)の作り方。かなり詳しく。

<第7章 道具使いのマジック>
チンパンジーも道具を使うが人が使うものとは比べ物にならない。ゴリラが棒を使い虫を採る。これはひょっとしたら知能ではなく遺伝的素質として身に付けているものではないのか?しかし、遺伝的素質からとは考えにくい。遺伝的素質と学習する知性の中間領域。

ヒト科の脳の急激な進化は道具を使い始めたからというよりも、友人をつくり他のの人々に影響をあたえるためだったのではないかという説。マキャベリ「君主論」から。(221頁)

<第8章 「美しい」あずまや?>
動物の構築行動には「美しさ」を求める動機付けはあるのか?遺伝ではなく地域差と個性に夜構築物。マダラニワシドリの求愛のディスプレイ。

「建築する動物たち」では生命の構築行動について考察することでヒトの構築行動について考えます。動物の「攻撃」という行動とヒトの「攻撃」という行動を比べたローレンツの「攻撃」と並べてみることができるのではないでしょうか。冒頭にも書きましたが、本書中のキーワードは「空間の記憶」だと思います。ヒトは空間の記憶に構築行動が影響される生き物であるということ。これが建築を設計する我々にとっては大変刺激的な言葉です。ゆえにこの本は建築設計者に向けたメッセージとして読むことが出来るでしょう。


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投稿者 furukawa_yasushi : 2009年11月06日 18:30

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