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2010年09月15日

From Left to Right----Bill Evans

[ジャズ--jazz ]

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From Left to Right
Bill Evans 1969年-1970年録音
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1969年10月14日、10月21日、11月13日
1970年3月26日、3月28日、4月23日、4月29日、5月1日
これは、このレコードが録音された日です。
1年半にわたり8回も録音されているわけですが、ずいぶんと時間をかけて作られたレコードだということが分かります。

BeatlesのSgt. Pepper'sの発売日が
イギリスにおいては1967年6月1日に、アメリカにおいては1967年6月2日。
その録音はというと、1967年2月1日に始まり、3回のさらなるセッションのあと、3月6日に終わっていましたから、その回数はせいぜい5回です。

多重録音の可能性については、1966年5月16日に発売されたブライアン・ウイルソンのPetSoundsが先行していますが、ジャズの世界ではBillEvansが1963年に発表した「自己との対話」が最初に評価された作品と言われています。とはいえ、「自己との対話」は多重録音された作品というだけであり、その可能性まで切り開いたというのには少々の無理があります。

ところで、そもそも、ジャズは瞬間の芸術で、即興演奏が命ですから、多重録音とは相容れないもの。これはジャズに限らず、音楽がそもそもそういうもの、その場のもの、その時間と場所を共有している人達だけのものだったわけです。それが、録音という技術により一回の演奏が2回3回と繰り返し再現できるようになり、再生できるメディアがレコードという形で流通するようになったのです。これは、演奏者にとっては演奏の場を失う事にもなりかねない。だから、1940年代にはレコーディング反対の狼煙もミュージシャンからあっがたほど。でも、歴史はそちらの方には動かずに、より大量にレコードを売る方に流れてゆきます。
ポップミュージックは、そのような大量消費社会の音楽の申し子かもしれません。
ただ、その大きな流れにより録音の技術は飛躍的に発展してゆきます。
多重録音の可能性とは、そうした時代背景を抜きには語れないものなのです。

このビル・エヴァンスのレコード「From Left to Right」は、手間隙かけて作ったにもかかわらず、発表当時はまるで評価されなかったようです。
だから、ということでもないのですが、エヴァンスはこのようなレコードを以降つくることはありませんでした。というわけで、このレコードはエヴァンスのディスコグラフィの中でも、かなり特殊な位置を占めているのです。数多いエヴァンスのレコードの中でも唯一無二の存在なのです。

今、このレコードを、実はよく聞くのですが、エヴァンス独自の多重録音への思いが伝わってきます。軟派なムードミュージックのように受け取られがちですが、決してそのようなものではなく、鋭利な刃物で玉ねぎの薄皮をむくような世界がそこには広がっているのです。

1980年9月15日没。享年51歳。没後30年の今日は、彼がむいた玉ねぎの薄皮を聴きながら過ごすことにしたいと思います。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2010年09月15日 10:45

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コメント

再生メディアは、決してライブの魅力に勝ることができない。その欠点を補うため、様々な録音ポリシーが生まれてゆきました。多重録音の可能性もそのうちのひとつですね。
ビル・エヴァンスのこのアルバムは寡聞にして存じませんでした。購入してじっくりと聴いてみたいです。

投稿者 M.Niijima : 2010年09月18日 23:08

M.Niijimaさま
聞けば聞くほど面白いレコードなのですが
最悪なのは音質。ダビングのしすぎで、やれやれ、な、音になってしまっています。
それでも、面白いんですけれどもね。
聞かれましたら感想などお聞かせください。

投稿者 fuRu : 2010年09月20日 20:32