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2004年11月15日

「ミスター・ヴァーティゴ」--ポール・オースター

[books ]

「ミスター・ヴァーティゴ」
著:ポール・オースター 訳:柴田元幸
出版社:新潮社 ISBN:4105217070 定価:2520円(税込み)

この本を読み終えて
僕はとても嬉しくなった。
「物語の力」がこれほどまでにパワフル全開で僕を満たしてくれたなんて
いままでなかったからだ。

1920年代から30年代のアメリカ。
ウオルター・クレアボーン・ローリー。
一人の少年。
彼は12歳の時に空を飛べるようになり
14歳の時に飛べなくなった。
そんなファンタスティックな物語の背景に
ハンガリーからのユダヤ人移民、アフリカからつれてこられた奴隷の子、ネイティブアメリカンの女性。
そして、KKK団の襲撃-絞殺、家庭内暴力、大恐慌、といったこと。
アメリカが抱えている「こと」が物語のなかに詰め込まれる。
いやいや、物語の力がそうした一切を飲み込んでゆく、どちらかというとそういう感じ。
その「物語の力」は、とってもタフな少年の生き様であり
生きるということへの「力」そのものなのだ。

ポール・オースターを読もうと思ったのは
以前のエントリーで紹介した
三浦雅士の「村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ」という本を読んだからだ。
ちょっとは期待していたけれども、ここまでストレートにパンチが来るとは思っていなかった。

「もうひとつのアメリカ」といった時に
どうしても暗い過去に押しつぶされそうな「イヤーな」イメージがつきまとっていたが
そんなもの吹き飛ばしてくれるくらいの、前向きなパワーををもった「物語の力」。

そのパワーは、人と人とのつながりを描く力であり、人と人とのつながりが発するパワーである。
ちょっと、本文から抜き書きしてみよう。
+++++++++++++
「何が入ってたの?」
「あんたは知っていると思ってたけど」
「何だかんだで訊きそびれちゃって」
「地球儀よ。あの人。地球儀をくれたの」
「地球儀?そんなのどこが特別なわけ?」
「プレゼントじゃないのよ、当別なのは。添えてあったメモよ」
「それも見なかったよ、俺」
「たった一センテンス、それだけ。君がどこにいようと、僕は君と共にいる。その言葉を読んで、もうだめだった。あたしにはこの世で一人の男視界内。その男と一緒にいられないんなら、代用品や安物の模造品なんか相手にしたって意味ないって思ったのよ。」
+++++++++++++
「でもさ、俺、野球以外に何にも能がないんだよ。今度しくじったらもうおしまいさ。それはわかっている。だけどな、ウオルト、俺みたいなろくでなしに、ほかに何ができる?」
何だってできるさ、と俺は思ったが、そうは言わなかった。
+++++++++++++

こんな抜き書きを読んでも、ちょっとピンと来ないかもしれない。
でも、本を読むと、この部分が結構効いてくる部分だって言うことがわかってもらえるだろう。
そういう効いてくるパンチがいくつも仕込んである、そんな合わせ技もある「物語の力」。
その力が導いてくれるところ、それはすでにもってしまった「闇」を受け止めながら、明日を生き続けようとすること。その前向きなメッセージが、実に感動的なのだ。

ポール・オースター。もっと読んでみたい作家がまたあらわれた。

ポール・オースターのページ(個人でやっておられる)

PAPERBACK GUIDE     Paul Auster(1947 -  )

「作家なんて、ならない方がいい」
ポール・オースターが語った『トゥルー・ストーリーズ』
(週刊新潮 2004年3月18日号)

投稿者 yasushi_furukawa : 2004年11月15日 11:36

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コメント

はじめまして。コメント&TBありがとうございます。
『リヴァイアサン』を読んでおられるとの事。
その他には『偶然の音楽』や『ムーン・パレス』などもお薦めです。是非機会があれば。
あと、『幽霊たち (GHOSTS)』は結構読まれてる方が多いようです。個人的にポール・オースター作品にハズレはないと思ってたりします。

投稿者 かっけー : 2004年11月18日 01:48

かっけーさん こんにちは。
「リヴァイアサン」は、小説の中の「私」と「サックス」が
どうしても、村上春樹の「僕」と「鼠」にかさなってしまいます。
これでは、純粋にこの本を読めないぞお、と
頭をぶんぶん振りながら読んでいます。

投稿者 fuRu : 2004年11月18日 09:41

「リヴァイアサン」読了。
いろいろなエピソードが詰め込まれていて
それぞれが細い糸でつながっていて複雑な構成。
「腐敗した国家」???
まだまだ興奮しています。
ちょっと、落ち着いたらエントリーしたいと思っています。

投稿者 fuRu : 2004年11月22日 23:23

「幽霊たち」読了。
途中で投げ出している、ソローの「森の生活」。
最後まで読んでみよう。
でも、いまは「孤独の発明」を読み始めました。

投稿者 fuRu : 2004年12月01日 18:59

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