« 「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」---J. K. ローリング | メイン | MUSE_House が はじまります »

2006年09月21日

「名もなき毒」---宮部みゆき

[books ]

「名もなき毒」
著:宮部みゆき 出版:幻冬舎
amazon

ポール・オースターの「最後の物たちの国で」や
カズオイシグロの「私を離さないで」をSF小説という人がいるだろうか?
ハリー・ポッターシリーズは単なる児童文学だろうか?
「カラマーゾフの兄弟」は推理小説だろうか?

宮部みゆきは自らを大衆小説家だと言うに違いない。
そして、推理小説家だと。

でも、登場人物の描写は、ますます冴え渡る。
「私を離さないで」も「最後の物たちの国で」も「ハリー・ポッター」も「カラマーゾフの兄弟」も
SFとかミステリーという枠を飛び越えて、そこに登場する人物たちが、
いかに深く、そして、精緻に描かれていることか。
小説の楽しみ、醍醐味は、そこに描かれる人物に出会えることだ。
そして、そのためには、「人」は深く精緻に描かれていなくてはならない。

今回、宮部は筆は
「原田いずみ」という人物を描く。

もちろんフィクションである。
「原田いずみ」などという人物はいない。
でも、ちょっと、思い起こしてみてほしい。
誰にでも、「原田いずみ」に遭遇した経験があるんじゃないだろうか。

そこに潜む暴力は
得体の知れない「何か」と細い糸でつながり、通じている。
その緊張感。

宮部の筆はますます冴える。

人の奥に潜む「毒」をあぶり出そうとしている。
そして、僕らはその毒を噛む。

久しぶりの現代ミステリーは
どこまでも深く深く「人」の中を覗き込んでいる。

<蛇足>
現代ミステリーとしては前作となる「誰か」からの連作であるが、内容的には関係ないため、この本を単独で読んでも十分楽しめる。

投稿者 yasushi_furukawa : 2006年09月21日 08:00

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://af-site.sub.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/1003

このリストは、次のエントリーを参照しています: 「名もなき毒」---宮部みゆき:

» 宮部みゆき著 「名もなき毒」 from 続・U設計室web diary
宮部みゆきの小説は、どれも人間への信頼感が根底に流れている。 だから小説のストーリーがどんなに悲惨であっても 読後に、突き放された虚無感やニヒリズムに... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年10月07日 19:08

コメント

コメントしてください




保存しますか?