« こなら 発芽 | メイン | おばけと忍者 »

2005年04月16日

「最後の物たちの国で」--ポール・オースター

[books ]

「最後の物たちの国で」
著:ポール・オースター 訳:柴田元幸 白水Uブックス
amazon

行方不明の兄を探しに行った国は
打ちひしがれた世界。
何に?
人々から少しずつうばわれてゆくもの。それは何?

ここで描かれている世界は現代の寓話か?荒唐無稽な作り話か?
しかし、いったい誰がこの話を荒唐無稽だと笑い飛ばせるだろうか?
僕らの目の前には、ここで描かれている世界のそのいくつかの情景が
現実のものとして突き付けられているのではないのか。
この本を読んだものが、これをただの寓話として片づけられないのは
この小説が、フィクションによりノンフィクションを表現しているからではないのか。

フィクションとはなにか?ノンフィクションとはなにか?

現実の世界にいきる僕らには物語が必要だ。
僕らは物語を生きている。
そして、僕らがいきる物語は寓話ではない。

この小説の世界が、あまりにも惨たらしいと思う方もいるはずだ。
僕だって読んでいて絶えきれない描写がいくつも出てきた。
そして、登場してくる人物はみな、あまりにも打ちひしがれている。
でも、そんな絶望的な世界に、人がいきる力が浮き彫りにされる。
力強い人間の生き様。
それは、けっして人間礼賛ではない。
「人間」を越えた、もっと「生命」の根源に近いものへとオースターの眼差しは向けられているように感じる。その眼差しゆえに、この小説は僕らに感動を越えて迫ってくるのだと思う。

<蛇足>
村上春樹→柴田元幸→オースターとたどりついて
ミスター・ヴァーティゴ」「リヴァイアサン」「孤独の発明」「幽霊たち」と読んで、しばらく休んでこの「最後の物たちの国で」を読んだ。
オースターを読むと、小説ってやっぱり面白いなと、うなってしまう。
次は何を読もうかな。

「村上春樹と柴田元幸のもうひつとのアメリカ」--三浦雅士
「翻訳夜話」--村上春樹・柴田元幸


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年04月16日 10:39

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://af-site.sub.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/451

このリストは、次のエントリーを参照しています: 「最後の物たちの国で」--ポール・オースター:

» In the Country of Last Things from 引き出しの中身
最後の物たちの国で 著:ポール・オースター 訳:柴田元幸 白水Uブックス 近未来ではない、二十世紀の世界のどこかで、失われて行く国。 そこに住む人... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年07月04日 06:29

» ポール・オースター「最後の物たちの国で」 from make myself just as hard
このノートがあの部屋に行きつくと思うと、嬉しくなります。たとえば私のベッドの上の棚に、昔遊んだ人形たちや、七つのときに着たバレリーナのコスチュームと並んで。私を... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年07月22日 11:34

» ミクシィの外側の国で、あるいは「最後の物たちの国で」 from イケスカナイズ
これはミクシィの外側のお話です。と彼女は書いていた。 アナタはしらないかもしれま [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年05月28日 02:48

コメント

fuRuさん、こんにちは
オースターいいですよね^^
といっても、僕がはまったのは昔になってしまったので、なんかイメージだけが自分の中に塊となって残っているだけですけど・・・
もう一度読んでみようかなぁ、などと fuRuさんお記事を読み思いました。

投稿者 amehare : 2005年04月16日 11:41

amehareさん こんにちは
僕は、オースター真っ最中です。
「ムーンパレス」を読んで、もうすぐ、「偶然の音楽」が終わります。
あと読んでいないのは、邦訳されている小説では「シティ・オブ・グラス」と「鍵のかかる部屋」だけかな。
柴田さんの訳では、言い回しが村上春樹風に読めたりするのが楽しいですね。
僕は、村上春樹の小説を、「羊をめぐる冒険」くらいから、もう一度読み直したいなと思い始めています。

投稿者 fuRu : 2005年04月16日 12:02

初めまして
久しぶりに読んだポール・オースターでしたが、面白かったです。
どちらかというと、柴田元幸氏の訳本を探して手にしました。
「翻訳夜話」も面白そう!
TBさせていただきました。

投稿者 sheknows : 2005年07月04日 06:33

sheknowsさん はじめまして
柴田さんの訳はすごいなあと思います。
とても、海外の小説の訳とは思えないくらいに、読み手の心を掴みますよね。
で、原典をねじ曲げたりという、捏造も感じません。
「翻訳夜話」で、語られている
物語の骨格のようなもの、原石のようなもの、そういうものを強く感じます。
たぶん、おそらく、原典を読んでも、ほとんど変わらない印象を持つのではないでしょうか。
まあ、オースターの小説も、とっても面白いんですけれどもね。

投稿者 fuRu : 2005年07月04日 09:52

小生のブログにお越し下さりありがとうございました。
滅多に本については書かないのですが…、また、どうぞ。
>原典をねじ曲げたりという、捏造も感じません。
あ〜、ありますよね、「あんまりだ〜」という訳出。
そういう意味で安心して世界に浸れる、日本語の豊かさすらも味わえる氏の訳は貴重だと思います。

投稿者 sheknows : 2005年07月04日 10:58

fuRu さん、こんばんは。
そして、ご無沙汰しております。
また、TB させていただきました。

柴田さんも解説に書いていましたが、圧倒的な絶望のうちにも光明を見いだしてしまうのは、絶望に寄り添うようにして希望というのが存在するものか、もしくは人間はいついかなるときも「希望」をねつ造する生き物なのか、考えさせられました。

単なる人間礼賛ではないという指摘、全くそのとおりですよね。生命の否定しがたい力強さを感じる作品でした。

投稿者 遠江 : 2006年05月28日 02:55

遠江さん こんにちは
そうですね、この本を読んで
「希望」ということの、本質を、ちょっと教えてもらったような気がします。
いつまでも忘れない本の一冊です。

投稿者 fuRu : 2006年05月28日 22:11