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2005年06月28日

Seven Steps to Heaven---Miles Davis

[ジャズ--jazz ,音楽--music ]

Seven Steps to Heaven---Miles Davis
1963年4月19日、5月14日録音
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1960年代を通して、ジャズが変質してゆく過程のなかで
それぞれのミュージシャンにとっての分岐点というものがあるとすれば
僕はマイルスの分岐点をこのレコードに聴いてしまいます。

そして、このレコードが録音された前日の1963年5月13日は
僕がこの世に生を受けた日です。(マイルスとぜんぜん関係ない)

Victor Feldman(ヴィクター・フェルドマン)は器用貧乏な人です。
1934年ロンドンで生まれ、7歳でドラムを演奏、8歳で初録音、9歳でピアノ、14歳でヴァイブ。
なんと初リーダー作は14歳!
1955年(1956年?)にロスアンゼルスに渡り本格的な活動を始めます。

1963年の初め。マイルスバンドのメンバーは次々と退団。
困ったのはマイルス。西海岸のツアーのために、最近評判のヴィクター君に声をかけました。
なかなか新鮮なピアノを弾く彼の事を、当のマイルスはいたく気に入り、マイルスバンドへの勧誘。
しかし、西海岸が大好きなヴィクター君はマイルスのそんな申し出を断ったのです。
まあ、でも、といって、録音したのが、このレコードの収められている3曲。4月19日の録音です。

しかし、このレコードはヴィクター君がひとりで貧乏くじを引いたかのような言われ方をします。
たしかに、タイトル曲の作曲はヴィクター君だけれども、その録音のメンバーから外され
作曲した当人としてみれば腑に落ちないことだらけ。

そして、残り3曲(5月14日録音)に参加しているトニー・ウイリアムスの存在ばかりが注目されて
自分が参加している3曲は、軽くあしらわれてしまう始末。
中山康樹なんかは、聴かなくても良いとまで豪語。
でも、ヴィクター君の演奏している3曲は、なかなか良いんですよね。
マイルスもヴィクター君の伴奏で気持ちよく吹いているではありませんか。
マイルスもウエストコーストの心地よい風に吹かれてみたかったのでしょうね。

まあ、その、ヴィクター君の良さを発見できたのは
スティーリ・ダンを聴き直してからなんですけれども
ヴィクター君はあのスティーリ・ダンの端正なサウンドに一役も二役もかっているんですよね。

たられば、は、ありえないんだけれども
もし、マイルスグループにヴィクター君が入団して
マイルス君がウエストコーストの風を満身に受けて
スティーリ・ダンの築いたような、端正な音の世界に邁進して行ったらどうなったか。
まあ、絶対にそんなことにはならなかった事だけは明らかなんですが
ジャズが変質してゆく60年代の一つの分岐点。
マイルスが見比べていた二つの方向。
それが、こんなにわかりやすく一枚のレコードの収められている。
これぞ、「天国への七つの階段」の面白さなんだと思うんですよね。

で、この後、マイルス君は迷う事無く、トニー君たちと異種格闘技の世界へ突き進んでゆくわけなのです。

<参考>
○West Coast Rock ジャズ・ミュージャンの活躍
○HEAVY MERCY ヴィクター・フェルドマン


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年06月28日 09:25

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コメント

このアルバムは、ほとんど取り上げられることも無いけれど、いいですよ。たまにこれ聴くと、マイルスのミュートっていいな〜と、ふつ〜に感激します。
「中山康樹なんかは、聴かなくても良いとまで豪語。」マイルスを聴けのなかにありますよね。マイルスのキャリアの上ではそうかもしれなし、たしかに過渡期のアルバムであることは間違いないけれど、ヴィクター・フェルドマンがいいじゃないですか。
たしか、彼とスコット・ラファロとドラムが思いだせないけれども、トリオでコンテンポラリーからアルバムが出ていたような? ジャケットが砂浜に上陸した三人の写真だったように記憶します。けれどヴィクター・フェルドマンならこれで十分というのが僕の感想です。

投稿者 syo-hyo : 2005年06月28日 22:14

はじめまして。
Blogpeople Jazzで懐かしいアルバム名を見てぶらりと来ました。
好きなんですよ、Victor君のピアノが。どちらかというと、
タイトル曲やVictor不参加曲よりもVictor参加曲の方が
好きです。フワフワー っとした感じが。西海岸Breezeって
いう感じの優しさが。

ニューヨークの空っ風のような鋭さはないので批評家にとっては
「聴かんでもええ」のかもしれませんが、Victorピアノは素敵です。

Furukawaさんと同じ意見だったので嬉しくて書いちゃいました。ではでは。

投稿者 ジョージ : 2005年06月29日 09:12

syo-hyoさん
syo-hyoさんが最近エントリーしていたプラグドニッケルのコンプリートは僕も好きで時々聴くんですが
かなりハードであります。60年代クインテットの実力は、そりゃあもうすごい。
この記事でも「異種格闘技」で「フィルモアのライブ」にリンクさせていますが、本来ならばプラグドニッケルの記事を書いてそこにリンクするべきですね。トニー君のこの頃のドラムは、ほんとすご過ぎる。エリックドルフィの「アウト・トゥ・ランチ」も大好きですが、そこでのトニー君は神がかっています。
まあ、ともかく、ヴィクター君はリーダー作には恵まれていませんね。その点が可哀相なところです。

ジョージさん はじめまして
ジョージさんのブログを今覗いてきました。
素敵な企画をやっています。
○みんなとSyncopation企画
http://kamesan.net/blog/archives/syncopation/
僕も参加させていただきたいと思っています。
よろしく!

投稿者 fuRu : 2005年06月29日 10:14

ヴィクター・フェルドマン(p)は、確かに不運ですね。わたしは、「天国への7つの階段」
よりは、「クワイエット・ナイツ」のほうをよく聴きます。彼が参加しているのは、「Summer
Night」だけですね。ほぼ同時期の録音にもかかわらず、62年4月までがフェルドマンで、
5月からはハービーにスイッチ。
ギル・エヴァンス(arr)とのコラボ作品や、なにがやりたいのかイマイチよく見えないマイ
ルスのこのあたりの録音、コロンビアのマスターテープでいいますとco756XX〜771XX
あたりまでの、さまざまなアルバムに分散されて収録された半端なテイクの数々に、
わたしはなぜか昔から惹かれてしまうのです。
「クワイエット・ナイツ」の未完テープまで含め、コンプリートCDが出るということで、さっそ
く飛びつきましたけれど、当然のことながらギルとのコラボ作品の完全版で、「Summer
Night」のみ見事にカット。(笑) ホントに不運だぜ・・・と、そのとき思った憶えがありますね。

投稿者 Chichiko Papa : 2005年06月29日 14:01

Chichiko Papaさん

>なにがやりたいのかイマイチよく見えない(中略)半端なテイクの数々に、わたしはなぜか昔から惹かれてしまうのです

このコメントに愛を感じましたでござる。
この時期を前後して、マイルスは明らかに変わりましたよね。
ハービーとかトニーにめぐりあったということも大きいでしょうけれども
もっと、時代的な大きな転換点を感じてしまいます。

投稿者 fuRu : 2005年06月29日 15:32

ハービーとかトニーよりも、やっぱりウェイン・ショーターの参加が決定的でしょう。
そういえばアンソニー・ウィリアムズのブルーノートの廉価盤も来年あたりにリリースされますが、彼も一人になると何をやりたいのか見えない人ですね。60年代後半の日本人ドラマーは猫も杓子もアンソニー・ウィリアムズの真似してハイハットをシャカシャカ連打していたなぁ。

投稿者 iGa : 2005年06月29日 18:53

iGaさん どうも
ショーターが初参加するベルリンが1964年9月25日ですから
トニー+ハービー参加から1年と4か月。
もちろん、60年代クインテットはショーターなくしてはありえなかったわけですから
マイルスもずいぶんと待ったものです。
というわけで、ジョージ・コールマンもヴィクター君と並んで可哀相な存在ではあります。
でも、やっぱり、ショーター加入後の60年代クインテットの4枚(スタジオ録音)はいつ聞いてもすごいんですよね。
ところで、フィルモア・イーストの1970年3月7日のライブには
実はショーターが入っています。エレクトリックマイルスのライブでのショーターは、自分が何やっているんだか見えていない感じというか、マイルスの見ている方向が見えないというか、要するについて行けない感じで、ちょっと可哀相です。まあ、バンドには、すでにトニー+ハービーはいないんですけれどもね。
iGaさんの言う通りだと思うんですが、トニー君のリーダー作は、ようわからん、です。
でも、60年代マイルスグループでのトニーのドラムが、マイルスが進む一つの流れを決めた、と僕は思っているわけなんです。それは、ドラムスがデジョネットに変わってからもその方向性は変わらなかった、ということなんです。

投稿者 fuRu : 2005年06月29日 19:27