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2007年10月18日

信頼の担保

[a-家づくりについて---house_making ]

ちょっと古いネタですが9月29日付の日経新聞によると
住宅の着工戸数がこの8月で昨年比43%の減なのだそうです。
おおむね、マンションが6割減で戸建て住宅が3割減、平均して4割減とのこと。
日経新聞は、今年の6月20日に施行された改正建築基準法が厳しいために
建築確認がなかなか下りなくなったことを原因としていますが
戸建て住宅に関する仕事をしている人の3割以上が仕事にあぶれているという恐ろしい事態になっています。

カトラーさんの人気ブログ「katolerのマーケティング言論」の
10月14日の記事「耐震偽装問題の彼方に見える「住宅金融革命」という陰謀?」では、今回の混乱を独自の視点で分析しています。その元になっているのは「あたりまえの家ネット--カラスの家」での東京町家さんとの往復書簡です。

話の要旨はそれぞれのブログ記事を読んでいただければ良いかと思うのですが、東京町家さんの悪夢をめぐり恐ろしい分析が行われています。

ところで、今回の議論の根っこにあるものはなんでしょう。私には「某国の陰謀」とは思えません。私には問題の根っこは家づくりに関する「信頼の担保」を作り手側がどうするかということだと考えています。「某国の陰謀」という考えはとても興味深いですし、ある種のリアリティはあると思いますが、その点ばかりを強調することで我々の足下が見えなくなっては本末転倒だという気がします。

そんななか、往復書簡で東京町家さんの手紙に寄せられた「カトラーの読者です」さんのコメントが印象的でした。

カトラーの最新エントリー記事で、このブログを知りました。工務店も大変ですね。でも、一般人からすると、アネハみたいな業者だらけに見えてしまうのが、住宅業界です。いつも騙されたり、何か嘘を言われているみたいで、一言でいえば信用できないのです。そうじゃない!という情報発信が必要ですね。そうじゃないと、アメリカから言われても、外圧だったとしても、いい住宅が、それも資産価値を有した住宅になるのなら、ほとんどの日本人は「イエス」と言いそうです。今までも、アメリカの言うことを聞いて、豊かになった経験があるのですから。

姉歯問題が建築の作り手側の信頼を失墜させたとするならば、失ってしまった信頼をどうしたらいいのか。その信頼を担保するものが完成した建築の資産価値だとすれば、その資産価値について作り手側はどのように説明出来るのか。

いままで「うちは信頼でやっています」と言ってた工務店さんも、その信頼とはいったいなんなのかと問われれば、はっきりと説明出来る人は多くない、いや、ほとんどいないでしょう。売り物の昔気質、職人気質は、完成した建築の資産価値を客観的に評価すると言う点では、なんら説得力を持ちえないということを正直に受け止めるべき時が来ているのです。

言葉を変えれば、信頼というものが地縁のネットワークに裏付けられた<絶対的>なものから、ネットワーク外の他者に評価されないと確立出来ない<相対的>なものに変質しているということです。

これは姉歯事件とは関係ありません。世の中の流れとしてそうなっているのです。
その事実を真摯に受け止めること。

我々設計者も作り手側として他人事ではありません。自分の設計した建物の<信頼の担保>をより確かなものにして説明出来なければ生きてゆけない、そういう世の中であるということの自覚が大切なのです。

工務店も我々設計者も、目の前に完成しているわけではない建物に対してお金を払っていただく仕事です。当然、信頼がなければ仕事は依頼されません。逆に言えば、我々の仕事は、この信頼関係が確立されなければ成立しないわけです。

信頼の担保が、ある種の客観性をもって求められる時代に、我々の仕事を成立させるために我々がやらなくてはいけないことは何か?

それに気付いた工務店さんたちのグループもいます。彼らの動きは大変刺激的です。
私も彼らの動きに刺激をもらいながら自分のスタンスをしっかり持ってゆかなければと考えています。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2007年10月18日 00:00

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» 住宅着工3割減に from 三代目のダイアリー
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トラックバック時刻: 2007年10月18日 18:26

コメント

確認下りてますか?って挨拶代わりになってますもんね。
工務店さんと構造設計者に一番しわ寄せが来てると感じます。

投稿者 nt-lab : 2007年10月18日 07:16

nt-labさま
確認下りました。
木造二階建てですが、当初の予想よりも早く予備審査を含めて1ヶ月でした。
なかなか優秀です。
次に控えている木造三階建てが難産になりそうです。
ほんとに、困ったものですね。
我々はまだしも、実際の仕事が減っているわけで職人さんは大変だと思います。

投稿者 fuRu : 2007年10月18日 15:00

<信頼の担保>正しく今住宅業界が社会から突きつけられている課題ですね。
これは法律を変えようが、規制を厳しくしようが、根本のところで変わりません。
ずっと以前に、カトラーさんが書いていた「コンプライアンスよりコモンセンス」の記事が身にしみます。
そして、コモンセンスの根本は、顔を合せ信頼関係をつくることです。
ネット社会になり、顔を合せずに自分勝手に行動しやすくなっているところで如何に信頼関係を育てるか。
「そんなことをしたらお天道様が見ているよ!」って言われて育った世代には、隔世の感があります。
私の記事ご紹介ありがとうございました。TBさせていただきます。

投稿者 東京町家 : 2007年10月19日 12:39

東京町家さま
コメントありがとうございます。
我々は、ユーザーから信頼の担保を求められているのですよね。
その要求に対して、何をどうお返し出来るのか。
つまらない法的な縛りなどではなく
もっと住まいの本質に関わるところで、やっぱり答えてゆきたいですよね。
その辺が見えている工務店さんが増えていることに比べて、設計事務所はまだまだ見えていない人が多いかもしれません。自戒を含めてこの記事を書いています。

投稿者 fuRu : 2007年10月19日 12:58

混構造(木+RC)とっても大変でした。
ほんと悩ましい問題ですよね。
私も同感で、設計事務所や工務店不利の法改正が許せません。
なんとかならないかなぁと思ってるわけですが、なんとかしなければいけないわけですよね・・・

投稿者 akatuki : 2007年10月19日 14:18

akatuki さま
この締めつけは
国が工務店をふるいにかけているのかもしれません。
(設計事務所は、端から相手にされていないのだと思います)
そのふるいにかける基準にどうも偏りがある感じがしますね。
大手に有利、といういつものパターンです。
しかし、住まいというものは人の存在を支えるものですから
大量生産や、似たようなものをつくっていても人間の気持ちは満たされないというところがあります。そうした根底に流れる欲望によって社会は動いてゆきますから、そこにコミットメントしてゆければと思っています。
この逆風の嵐を、それまでの間、持ちこたえられるかどうかが試されているのでしょう。設計事務所も同様だと考えます。互いにがんばりましょう。

さて、来週は木造三階建ての申請だ。

投稿者 fuRu : 2007年10月19日 14:57