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2008年05月29日

「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究」---菊地 成孔、大谷 能生

[books ,ジャズ--jazz ]

「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究」
著:菊地 成孔、大谷 能生 出版:エスクアイア マガジン ジャパン
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東京大学の教養学部でのジャズに関する講義が菊地成孔氏と大谷能生氏によって始まったのは2004年春。その講義録は「東京大学のアルバートアイラー」として単行本にもなっています。そこでは、歴史的な切り口(前期)とキーワードによる切り口(後期)で、それぞれ講義がすすめられました。そして、それに続く第三期として「マイルス・デューイ・デヴィスIII世研究」が2005年春から行われていたことは、ネット上でもその講義録が公開されるなどして早くから注目を集めていました。
先の講義録が単行本としてブレークしていましたから当然この講義録も単行本かされると多くの期待が寄せられていました。
が、しかし、講義が終われども、いっこうに単行本としてまとめられ出版される気配がありません。
どうしてしまったのかな・・・と、思うこと3年。ついに登場した本は、もはや講義録をまとめたものではなく、大幅に加筆され、インタビューや研究者の論考なども大きく取り上げられた750頁にも及ぶ大著となっていたのです。

これは、冗談でもありますが「自立する本」なのです。

マイルス・デヴィスの音楽は、1940年代のビ・バップから50年代のハード・バップ、60年代のモードに基づくオーケストラルな作品とフリー・ブローイングな世界。70年代へ向けてエレクトリカル、ファンク、ロックへの急激な接近。と、その時代により見せる表情ががらりと異なるわけですが、そうしたマイルスの音楽を通史的に概観する好著ともなっています。

そのなかでも、マイルスがどこに向かって突き進んでいったのか、を解き明かしてくれそうな、ケイ赤城のインタビューが、強烈に刺激的でした。

ハーモニーについては、ピアニストから言えば、マイルスの一番好きだったピアニストはビル・エヴァンスだったんです。(中略)難しく言えば内声が半音で動く。これははっきり言って、クラシックの響きなんです。19世紀末期、20世紀のヨーロッパの印象派の響きなんです。p630
「イン・ア・サイレント・ウエイ」で、和声的な大きなブレイクがあるんですね。(中略)とくに、チック・コリアの音の作り方でがらっと変わるわけです。そこでは、いくつかの調性が同時に動いているという考え方ではもう理解できない。本当に1個1個の音がそれぞれ独自に動いている。独自に解決に向かっている、あるいは解決しない方向に向かっている。だからもうポリトーナルっていう世界じゃないんですね。でも、ポリフォニックでもない。あえて言うならば十二音技法に近い部分があるかなと思うんです。p674

ここから、メシアンのセリー技法に代表されるフランスの現代音楽の流れがマイルスの世界に入ってきたのではと、話はすすみます。メシアンの世界はポリモーダル性が強いということにもふれられています。しかし、マイルスの場合にはセリー技法は根底にはなく、根底にあるのはあくまでもブルースの音程関係であるとされます。

そして、マイルスから一番学んだことは?の問いに対して

音楽には、始まりもなければ終わりもないということです。(中略)マイルスにとって、音楽を演奏するというのは、それをたまたま具体的に演奏しているというだけなんです。(中略)そう考えると、完璧な演奏といったものはありえないし、むしろ、それを目指すこと自体は良くないことなんです。そうじゃなくて、同時に無限のメロディが流れている、無限のリズムが流れている、自分の知らないところで。それを運良くつかむことが出来るかが、ミュージシャンなんだと思いました。p634

なかなか深いですよね。

何度も読み返して、じっくりと理解していきたい本であります。

「東京大学のアルバートアイラー」---菊地成孔+大谷能生
「東京大学のアルバート・アイラー---東大ジャズ講義録・キーワード編」


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2008年05月29日 00:30

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コメント

菊池成孔氏のマイルス論、昨年NHKテレビのジャズ特番で見ました。
多分おなじようなことを論じていたような。
で、やはり、Kind of Blueを大絶賛していたわけで、アナログ音源しか持っていなかった私は、デジタル音源で聞きなおそうと、マイルス回帰しました。
しかしすごい本ですね。こんだけ自立する本だと、買ってもブックエンドに使って終わってしまいそう・・・。


投稿者 りぼん : 2008年05月30日 14:19

りぼん さま
私が紹介したのはこの本のほんの一部です。
そして、この本では「Kind of Blue」については
一言も触れていません。
あえて、触れないことで、「Kind of Blue」がマイルスの人生で大きな分岐点になってることを浮かび上がらせようとしています。その辺も読みごたえがありますね。
分厚い本ですが、マイルスに関心があればすぐに読めてしまいます。それくらい面白い本です。ぜひ!

投稿者 fuRu : 2008年05月30日 14:32

この本、とっても欲しいのですが、高いですねえ。
もう少し、価格的になんとかできなかったものでしょうか。
でも、欲しい画集は貯金を数年つづけなければならない
ほど、もっと高かったりするのですが・・・。(笑)
マイルスの画集も欲しいけど、高いですねえ。

投稿者 Chichiko Papa : 2008年06月04日 14:07

Chichiko Papaさま
確かに安いとは言えないですね。
でも、amazonの怖いところは、そういう感覚がだんだん麻痺してきて、ついついポチッと押してしまうところなんでしょ。ちょっと、自粛しないといけません、です。

投稿者 fuRu : 2008年06月04日 15:22