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2005年01月12日

Portrait in Jazz--Bill Evans

[ジャズ--jazz ,音楽--music ]

Portrait in Jazz--Bill Evans
amazon
1959年12月28日の録音

黒メガネにスーツ姿で、髪の毛は7-3というか9-1くらいにきっちりわけてあって
ぼーっと青白い顔。
何でこんなジャケットなんだろう?
あらためて不思議に思います。

Jazzとひとことで言っても、その世界は実に広い。
それは、とてつもない大海原であって、だれも航海図なしには旅立てない、なんていうこともなくて、何となく気に入ったレコードをお気に入りの時間と場所で、ビールでもスコッチでもコーヒーでもすすりながら聴くのがよろしいのだが、
それでも、広いジャズという大海原を航海するには、いくつかの大陸の存在とそのだいたいの位置が描かれた地図を持っていた方が良いかもしれない。
広いジャズの海には大きな大陸がいくつかあるのだ。
その地図は、人によってちょとずつ違うのだろうけれども
多くの人にとって、「マイルス・デイヴィス」と「ビル・エヴァンス」がふたつの大きな大陸であることは間違いないでしょう。
そして、二つの大陸に上陸し、辺りを見回し、僕らは次なるジャズと出会う。
それは、なんだか、シルクロードを、はるか東西を旅していた人々のオアシスの記憶にかさなっているのかもしれません。そう、僕らはそんな旅をしながら生きているのだと思います。

「出会い」はジャズプレーヤーにしても大切です。
プレーやとプレーヤーの出会いが、新しい音楽を生むからです。
元旦に放送していた、ヨー・ヨー・マとシルクロード・アンサンブルの音楽を作ってゆく様子を見ていて「出会い」の大切さを見せていただいたと思いました。

というわけで、ビル・エヴァンスとスコット・ラファロの出会いも、多くの人に記憶されることになる出会いだったわけです。

「ビルエヴァンス--ジャズピアニストの肖像」(amazon)という本に面白いことが書かれていました。
マイルスグループを卒業(?)したエヴァンスが自身のグループを持ちたいと思っているらしいことを、親分だったマイルスが聞きつけた。そこで、子分思い(?)のマイルスは四方手を尽くしてメンバーの候補を探してくれた(口利きしてくれた)の。その候補になったベース奏者が、なんと、その後ジョン・コルトレーンの黄金のカルテットの一員となるジミー・ギャリソンだったのです。ちなみに、ドラムはケニー・デニスと言う人。フィリー・ジョー・ジョーンズは後ほどちょっと参加。
驚くべきことにこのトリオは実際に、ジャズクラブ(ベイズンストリート)で演奏したそうです。音源が記録されていなかったのが残念。まあ、しかし、この三人、どうもうまくゆかなかったようで、3週間ほどの予定が1週間経たずに解散。1959年の11月のこと。

ともかく、うまくゆかなかった原因は何だったかというのが興味深いところ。
たとえば、この本の著者であるピーター ペッティンガーは、コルトレーングループでのギャリソンが、コルトレーンのアドリブを底辺でささえることを重要視するスタイルであり、コルトレーンのアドリブにちょっかいを出すような、そういうスタイルではないことに注目。それはそれで、不動のコルトレーンサウンドを支えることに大いに貢献したのだけれども、ビルはちょっかいを出して欲しかったんではないかというようなことを彼は言っています。たしかに、ビルが考えていたトリオ演奏というものは、「はーい。僕はベースですからベースの守備範囲をしっかり守ります。あとは勝手にやってね。」というようなものではなかったわけで、それは、こうして出会ったスコット・ラファロとの演奏を聴けば一目瞭然です。でも、ビルだってスコットと出会わなかったらこんな演奏が可能だなんて事は想像も出来なかったのではないでしょうか。
それが「出会い」のなせる技です。

このベイズンストリートでのどたばた劇の最中に近所のお店に出演していたスコット・ラファロがやってきて、「それじゃあちょっとやってみるか、ビル」と一緒に演奏したのだそうです。きっと、そこで閃いてしまったんですね、ビルは。

実はスコット・ラファロとビル・エヴァンスはこのどたばた劇の前に出合っています。ふたりを結びつけたのはトニー・スコット。1959年10月に「SUNG HEROES」と言うレコードをトニースコットは録音しているのですが、そのバックを務めたのが、ビル・エヴァンス、スコット・ラファロにポール・モチアンだったのですね。

まあそんなわけで三人は出会い、ラファロを加えたビルのファーストトリオは活動を開始します。
オリン・キープニュースは偉い。すぐさま彼らのためにリヴァーサイドでのアルバムをプロデュースしたのです。それがこのレコード。なんと、どたばた劇から一ヶ月しかたってませんでした。しかし、およそ1ヶ月でビルのアイデアは、共演の二人とともに、こんなにもはっきりとした「かたち」(このレコードで聴かれるような)になったのです。これは、驚くべきことです。「来るものは来る時には来る」ということでしょうか。

その後のこのトリオは
1960年3月12日、3月19日、4月30日、5月7日のバードランドでのライブの非公式録音と
1961年2月2日録音の「Explorations」、
そして1961年6月のヴィレッジ・ヴァンガードのライブ録音を残します。

しかし、ここが運命のいたずら。
1961年6月25日のライブレコードを最後にこのトリオの活動は終止符を打たねばなりませんでした。

ビルにとってラファロの喪失は、本当に大きかったのだと思います。
その回復は、1979年-1980年の一年ほどの活動しかなかった
ラストトリオまで待たねばならなかったのだと、僕は思っています。
そして、そのラストトリオも完成した姿を見せる前に、今度はビル自身の死で永遠に葬り去られてしまうことになるのです。

投稿者 yasushi_furukawa : 2005年01月12日 18:10

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トラックバック時刻: 2005年02月14日 01:05

コメント

ビル・エヴァンスという大陸に上陸しはじめたばかりのsunneko11です。

エヴァンスのスコット・ラファロとの出会いと悲劇的な別れを想うと、本当に切ない気持ちになりますね。エヴァンスの喪失感を想うと、「ワルツ・フォー・デビイ」がさらにいとおしくなりますよね。
今度は、マイルス・デイビスの大陸に行き着いていきたいな。。と思う今日この頃。。

投稿者 sunneko11 : 2005年01月14日 21:45

sunneko11さん こんにちは
ラファロを失った世捨て人のようだったビルにみかねて
オリン・キープニューズはレコードの仕事をさせようとたくらみます。でも、4曲で断念。復帰はジム・ホールとのデュオの「アンダーカレント」まで待たねばなりませんでした。
こういう人間的に弱いビルというのも日本で人気がある原因かもしれませんね。僕は、好きですけれども。

投稿者 fuRu : 2005年01月15日 22:25

コメントとTBありがとうございます。最近は音楽ネタ書いてないので、またなんとかして書いてみたいと思います。
自分のところでも書いていますが、ラファロを失った後のソロが実は一番繰返し聴いていたりします。あれは涙出ます。
今後ともよろしくお願いします。

投稿者 しながわ : 2005年01月25日 18:13

しながわさん ようこそ
僕の方は最近音楽ネタばかりになっていて、これも困ったものだったりします。
こちらこそよろしくお願いします。

投稿者 fuRu : 2005年01月25日 18:42

fuRu さん、TB & コメントどうもありがとうございます。
私もときどきJazz CDのことを書いていきますので、
よろしくおねがいします。

投稿者 zig zag road : 2005年01月25日 23:36

zig zag roadさん ようこそ。
zig zag roadさんのところは話題豊富ですね。
こちらからも時々のぞかせていただきます。

投稿者 fuRu : 2005年01月26日 10:32

このジャケットの不思議な表情は、なんかその後の彼の運命を見据えているような表情ですね。いまだにこの緊張感にはびびって聴いています。

投稿者 hyuma : 2005年01月29日 10:05

hyumaさん こんにちは
>なんかその後の彼の運命を見据えているような表情
ほんと、そうなんですよね。
ビルエヴァンスのことを知れば知るほど、このジャケットの表情から得体のしれない緊張感を感じてしまいます。

投稿者 fuRu : 2005年01月29日 12:06

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