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2005年06月07日

「日々移動する腎臓のかたちをした石」---村上春樹

[books ]

「日々移動する腎臓のかたちをした石」---村上春樹

東京奇談集4として、「新潮 6月号」に発表された
村上春樹の最新短編。
リアルタイムで(単行本になる前の雑誌の段階で)小説を読むなんて、
「へるめす」で連載していた大江健三郎の「治療塔」以来。
タイトルに引きつけられ、冒頭を読んでさらに引きつけられる。

村上春樹は、僕らが生きているこの時間を共有している作家だ。
僕は、「羊をめぐる冒険」からリアルタイムで読んでいる。
「ノルウエイの森」も、その原型となった短編「蛍」をまず読んでいたく感動した。
「蛍」から「ノルウエイの森」への移行・変化もリアルタイムだった。
その後の、村上春樹がどんどん自分のいる位置を移動してきた事も
リアルタイムで体験してきた。
そして、村上春樹は、自らのスタイルと世界をどんどん変革して突き進んでいった
マイルス・デイヴィスのような存在になりたいと、あるインタビューで答えていた。

そして、今回のこの短編。
村上のもう一歩踏み出した世界を感じる。

以前から、現実のリアルな世界とこの世のものとも思えない寓話的な世界を一つの小説の中で重ね合わせてきた。しかし、その二つの世界にははっきりとした線引きがされていた。
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」では、まったく別の世界として描かれていたし
「ねじまき鳥クロニクル」では、井戸という場所を介していた。
「海辺のカフカ」では、「森」、あるいは「眠り」を通してそれら二つの世界は、明確にわけられていた。
今回の短編では、その二つの世界の扱い方が微妙だった。
その変化が興味深かった。

この短編は4話の連作小説として、さらに書き下ろしを加えたかたちで
この秋に新潮社より単行本として発売されるとの事。
今から待ち遠しい。

<蛇足--ネタバレあり>
小説の冒頭は、「男が一生に出会う中で本当に意味を持つ女性は三人しかいない」という主人公の父親の言葉で始まる。僕は、同じ事を仕事の先輩からずいぶん前に言われたことがあって、それを良く憶えていたものだから、この短編が気になってしまった。話の展開として、この「三人の女性の呪縛」から主人公が解き放たれるということが中心になるのだが、その話をめぐり、腎臓のかたちをした石が毎夜毎夜移動するという、小説の中の小説がでてくる。そして、キリエという不思議な女性。彼女の職業は謎のまま話は展開する。彼女と主人公のセックスの描写で、腎臓に触れるように背中に手を回すというような描写があったり、この小説の空間はとてもメタフォリカル。これは「アフターダーク」からの続いている流れであり、村上が目指している空間の行く手にとって必要なものなのだろう。

投稿者 yasushi_furukawa : 2005年06月07日 10:01

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コメント

マイルス・・・・味わい深くTBさせて戴きます。ぺこり。

投稿者 kazoo : 2005年06月07日 11:34

kazooさん
女性にも「三人の男性」と言うような事はあるんでしょうかね?

投稿者 fuRu : 2005年06月07日 18:38

現実の世界と
向こうの世界のつながりがどう表現されているのか
とても興味があります。
早速ぼくも読んでみよう。
新潮6月号ですね!

投稿者 och : 2005年06月07日 18:44

ochさん
とても面白いです。ぜひ読んでみてください。
でも、すでに書店には7月号がならんでいたりします。図書館がいいかもしれません。
ところで、落合さんは三人の女性とはもう出会いましたか?

投稿者 fuRu : 2005年06月07日 18:59

あ~~、あるかもしれません!!
私にも今ぱっと思いつくのがありますから。それと、その3人って、変化するものだとしたら、最終的に私は「どの3人に落ち着くんだろう??」って興味もありますね~。自分の事ながら。

投稿者 kazoo : 2005年06月07日 19:57

フルカワさん お久しぶりです。
春樹さん関連のエントリー、興味深く拝見いたしました。
意味のある女性三人・・・とても気になりました。
新潮6月号、手にとって見たいとおもいます。

投稿者 花猫(sunneko11) : 2005年06月08日 21:15

kazooさん
そうですか、やっぱり女性にもあるのでしょうね。
うーん、今度ゆっくりそんな話でもしてみたいですね。

花猫さん
花猫さんにもそういう男性はいましたか?
今度、こっそり教えてください。
それにしても、この短編は奇妙な余韻を残します。

投稿者 fuRu : 2005年06月08日 23:18

フルカワさん こんばんは

>花猫さんにもそういう男性はいましたか?
いましたかねぇ。。。いや、いましたねぇ。
男女を問わず、印象的な行動や言葉を発する人って
なぜだかずっと心に残っていて、
その断片だけを覚えているときがありますね。

今のところ確実に意味を持つ男性のひとりは
現在のオットなんでしょうけれど。
あと2人については、もうちょっと時間が
経たないと分からないのかも。

ますます読みたくなってきましたよ、この短編。

投稿者 花猫(sunneko11) : 2005年06月09日 20:43

花猫さんも、うーん。
こういう話題は女性の方が乗ってきますね。
男同士だと、酒飲んでいるときに出ますが
白面ではなかなか出ない話題です。
僕も仕事の先輩に言われたのは酒飲んでいるときでした。

投稿者 fuRu : 2005年06月09日 21:37

ご無沙汰しています。

実は「金の猿ブログ」が、とあるページで紹介して頂きました(^^♪
報告がてら、TBさせていただきます。

追伸
実は、『新潮』。
買ってだけで安心してしまい、まだ読んでないんですよ。。

早く読まないとっ!

投稿者 金の猿 : 2005年06月13日 23:00

金の猿さん どうも
村上ネタで充実のブログ。拝見させていただいております。
面白い短編なので早く読んだ方が良いですよ。
なーんて、あわてさせちゃったりして。

投稿者 fuRu : 2005年06月14日 09:21

東京奇譚は9月15日発売
アマゾンではすでに予約を受け付けています。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103534184/qid=1125826111/sr=1-1/ref=sr_1_10_1/249-7848459-9435509

投稿者 fuRu : 2005年09月04日 18:28

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