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2005年12月07日

「吉村順三建築展」

[建築--architecture ]

昨日(12月6日)、時間を見つけて「吉村順三建築展」に行ってきました。
新日曜美術館で紹介されてから
土日の混雑ぶりは尋常ではないという情報も得ていたので、無理をしてでも平日に。
その分、年内は土日返上になりそうです。(悲)
そんなこと言ったって、やはり、みるなら、平日の午前中でしょう。
(ここのところは、自営業の強みですね)

というわけで、ちょっと早めに到着して赤煉瓦倉庫なども見学。
正面に据えられた原寸大もじっくり見ます。

原寸図というのは描いたことあるけれども
原寸の矩計図というのは、さすがに迫力がありますね。

さて、開館の10時ジャストに入館。
館内にはすでに数人おりました。
ゆったりとした展示スペースに、模型と図面・写真が飾られています。
中でもやはり興味をひいたのは、できの良い模型の数々。
図面や写真は本でも見れますからね。

ちなみに、吉村順三の建築で実物を見たことがあるのは
奈良の博物館と八ヶ岳の音楽堂、青山タワービル。
福岡の河庄と京都の俵屋は玄関だけ。
いまでも、残念だったと思うのは
軽井沢の吉村山荘を見学できる最後のチャンスと言われていた
OM研究所主催の夏の学校に参加できなかったこと。

それは、ともかく、
今回展示されていた模型は僕にとって大収穫でした。
園田邸では、玄関の感じがよくわかった。
図面や写真ではなかなかわからなかった
玄関・居間・吹き抜けなどのつながりのボリューム感が絶妙なバランスだと言うことがよくわかった。
湘南の家では、今ひとつ全体像がつかめなかったこの建物が
とても端正な造形でまとめられていたということが
お恥ずかしながら、今回の模型で初めて理解できました。

模型というのはすばらしいですね。
建築の持っている魅力、それは直感的に把握されるような空間の全体のことなんだと思うけれども
その魅力を、模型というのは、ほんの少し分析的にではあるけれども、よく伝えてくれると思う。
この「ほんの少しだけ分析的に」というのが建築について考えるときに
実はとても大切なことなんだと思います。

図面や写真というのは空間をバラバラにしてしまう。
そのいったんバラバラになった空間を、頭の中でもう一度一体化させるためには
かなり分析的な知力を必要とします。
そうした一体化の作業は、トレーニングを積めばそれなりに誰でも出来るようになると思うのですが
そんなふうに分析力を使っていると、肝心の空間が実はそこなわれてしまうことがあります。

そもそも、空間というものは、もっともっと直感的に、あるいは生理的に把握されているわけです。
もちろん、空間の魅力というものも僕らの中にそうして取り込まれ蓄積されている。
僕ら設計者というのは、そうした、生理的でふにゃふにゃした空間の魅力というものを、いったん分析的に咀嚼して、バラバラにして、もう一度組み立て直すという作業をやっています。その手段として図面というものを使うわけですが、それは手段にすぎません。空間は図面を超えた向こう側にあるのです。

僕らは、その向こうとこちら側をつなぐ、そんなことをいつも一生懸命にやっている。
そして、その試行錯誤こそが設計という作業です。

そのなかで、模型は感覚的なものと分析的なもののちょうど間にあるものなのです。

模型と現実の空間の一番の違いは、スケールです。
模型には実物の大きさがない。
でも、大きさのルールがある。
このルールを守って、模型をみると言うこと。それが「ほんの少しだけ分析的に」ということの意味です。

たとえば、映画。
映画館の大画面で見た映画でも、自宅のテレビでDVDであらためてみると
意識していなかった画面の構成なんかに気がつく、ということはありませんか。
また、早送りで見ると、そういう人はあまりいないかもしれませんが、
映画の全体の構成がよくわかる、そういうことはありませんか。
僕らはその時に「ほんの少しだけ分析的に」映画を見ているのですね。

さて、話を戻しましょう。
今回の展示で、ずらりと並んだ吉村順三の設計した建物の模型を見て思ったのは
吉村の建物での「空間のバランス」というものの魅力です。
スケール感のない空間である模型でそれを感じるというのは逆説的な感もありますが、
そうではなくて、そのスケール感というものが、いったん模型という世界に置き換えられたことによって、逆に、建物が本来持っている「空間のバランス」が際だつことになった、ということなのです。

ちょうど、住宅の模型が並べられている展示スペースのところに
ラワンベニアヤで出来た、いわゆる吉村天井が、ジャストなスケールで吊り下げられていて
その何とも言えない心地よさが、模型の世界を我々の手元に引き寄せてくれるのを助けてくれていると思いました。

端正に考え抜かれた空間のバランスの魅力。
写真や図面ではなかなか伝わらないもの。
ましてや、言葉でそれを伝えるのも難しいかもしれません。
その魅力が、良くできた模型をとおして僕の心をとらえた展覧会でした。

シュトゥットガルト室内管弦楽団トリオ(今回の展覧会を記念したコンサートです)
「吉村順三の現代的意味」(11月19日のシンポジウム)


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2005年12月07日 10:00

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コメント

以前OMにてデザインスクールのお手伝いさせていただいたkonnoです。
吉村順三で検索していたら古川さんのブログがヒットし、TBさせていただきました・・・

ほんとにいい展示でしたよね。
吉村天井が良く会場の雰囲気をまとめていました。
また、こちらのBLOG拝見させていただきます。
宜しくお願いしま〜す。

投稿者 akatuki : 2005年12月19日 09:58

akatukiさん いやいや今野さん(漢字あってる?)、ごぶさた。
今週末に「吉村順三」で検索してヒットされた方がとても多いのにびっくりしています。
GoogleよりもYahoo!で検索すると
どうも一頁目とかに僕の記事が出現するようです。
吉村さんがとても小さな建て売り住宅から自邸を始めたことに、ちょっと刺激を受けてしまって
僕も自邸が欲しいモードになりつつありますから、今野さんのブログの記事、興味深く読ませていただきました。
こちらこそ、よろしく、です。

投稿者 fuRu : 2005年12月19日 10:29

fuRuさま

お久しぶりです。
本日、最終日にようやく『吉村順三建築展』に行くことができました。
時間があまりなかったので、早足での鑑賞になってしまいましたが…

建築の展覧会は初めてだったのですが、門外漢の私でも十分楽しめました。
模型は、眺めているだけでも面白かったです。
吉村順三さんのことばも、とても良かったです。

単純な感想ですみません。
素晴らしい展覧会に行くきっかけを作っていただき、有難うございました。

投稿者 Kompf : 2005年12月25日 22:39

kompfさん こんにちは
混んでいませんでしたか?
でも、行っていただけて光栄です。
吉村さんの奥様は音楽家で
当の吉村氏も大の音楽好き。
kompfさんにも、その辺が伝わったのではないかと空想しております。

投稿者 fuRu : 2005年12月25日 22:46

こんにちは。
TBありがとうございました。

旅行に出かけていてお返事遅くなってしまいました。

「原寸大」の文字は私も撮影してきました。
結構長い時間、あのパネル?の前に佇んでいました。一人で。
僅かですが、本物を見ている気になれました。

投稿者 Tak : 2005年12月27日 11:51

Takさん
ハワイ、良いですねえ。
暖かそうです。
ここのところの寒さ、大変でしたので
とてもうらやましいです。
ハワイとはいかずとも、どこかの温泉にでも行ってみたい年末であります。

投稿者 fuRu : 2005年12月27日 13:18