« みつまた | メイン | 鉄道と電線 »

2005年02月08日

「いちばん大事なこと」---養老孟司

[01-森林をいかす家づくり--moriiki ,books ]

「いちばん大事なこと—養老教授の環境論」
著:養老孟司 集英社新書
amazon

スルメを見て・・・」を読んで、<覚悟の人>養老孟司に興味を持った。
たくさんでている養老さんの本からこの本を選ぶ。
環境問題を正面から論じているのだ。経済と環境のことをちゃんと並べて論じてくれているのだ。そんな本は本当に少ないから、新書でそこのところをちゃんと論じてくれるこの本は貴重だ。
僕らが実践している「国産の杉材を使う」ということが直面している、経済と環境の問題もお日さまの元にさらしてくれる、そんな好書。

経済と環境は対立する。養老孟司は落語の花見酒の熊さんと八つぁんに喩える。
グローバル化した経済とは、地球規模の花見酒、であると養老さんは言うのである。
本書40pあたりである。すごい指摘だ。
熊さんと八つぁんがお金をやり取りすることが経済活動というものだ。
経済活動は活発に行われて、御酒という資源(=環境)は無くなってしまう。残ったのは二人の酔っ払い。お金は最初の十文だけしか残っていない。あたりまえだ。
たしかに、人間のやっていることはそんなことなんだろうなあと納得させられる。
それを、ずばりといってくれる養老さんはカッコいい。

この本の中で養老さんが指摘しているのは、人間が持っている都市化したがるという欲望だ。
「都市化した親」は子供の世話をやかなくなる、というようなことも話題に出てくるのだが、
都市化するというのはどういうことか?自然を嫌うということだ。自然とはなにか?それはとらえどころが無いもので、そういうわからないものを人は忌み嫌う。
人間の脳は都市をつくりたがる。そして周辺の森を切り尽くしてきた。人間のそう言う歴史についても唖然とさせられる。
日本では、自然が非常に丈夫だから、何度も森林は切り尽くされながら、ヨーロッパのようなことにならないですんできた。日本というのはすごい国だと思う。「自然力」とでも言うのだろうか。

ともかく、環境問題というのは、自然が生産してくれる分の資源以上に人間が消費したがっているために起こるということなのだ。
それについて、本文から引用しておこう。

環境問題を議論すると、
「そうはいっても、昔の生活には戻れませんからねえ」
と慨嘆する人がかならずいる。ジャーナリストにはとくに多い。そこで私はカッと怒る。「戻れません」という証明を、だれがしたのか。それをいうなら、「昔の生活には戻りたくありません」だろうが。それなら本人の意見だから、それを私はそれなりに尊重する。しかしそれを「戻れませんからねえ」と、あたかも昔に戻ることが「客観的に不可能」であるかのように主張するのは、インチキである。環境問題は他人の問題ではない。自分の生き方の問題なのである。184p

養老さんのこの言葉はとてつもない迫力と説得力を持っている。
そして、この養老さんの言葉を読んで思ったのは、環境問題を本当の意味での解決へと導くには、それぞれ個人が、環境問題というものと自らの都市化した生活とのあいだにどのように折り合いをつけてゆくかを自覚することが、まずは大切なんだということだ。

僕らは養老さんの言葉から「力」をもらう。

投稿者 yasushi_furukawa : 2005年02月08日 09:28

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://af-site.sub.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/374

このリストは、次のエントリーを参照しています: 「いちばん大事なこと」---養老孟司:

» 意識とはなにか。 from Ecotechnology
ヒトの脳でとくに発達した働きである。その働きが言葉を操り、都市をつくり出し、いわゆる近代社会をつくる。遺伝子からすれば、ヒトとほとんど違わないチンパンジーは、そのどれもやらない。脳が小さいからである。つまり環境問題を個人に戻せば、それは心と身体の対立と... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年02月09日 12:08

» 現代農業 from CHRONOFILE
「新月の木」のコメントで秋山さんに教えていただいた「月刊 現代農業」という月刊誌 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年02月11日 15:03

» 養老先生の環境論 from design platform
いちばん大事なこと―養老教授の環境論 養老 孟司 建築設計に携わってると、設計時に頭で考えていた図面が工事現場でこんなにエネルギーを消費する一大イベントということに毎回驚く。(恥ずかしながら)環境の事を考えたら建築などしないことが一番だという原理主義... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年02月25日 23:38

» いちばん大事なこと―養老教授の環境論 from 未来の成功のためのレッスン
いちばん大事なこと―養老教授の環境論posted with amazlet on [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年11月19日 23:04

» 半蔭地選定 沈黙の春 from 宮沢賢治の風 from 方城渉
 月齢 5.1日   ■宮沢賢治で 病気もストレスも吹き飛ばせ  今日は宮沢賢治の「半蔭地選定(はんいんちせんてい)」から。  半蔭地〔ハーフ... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年03月30日 15:31

コメント

とても幼稚な意見ですけど。
私は身体を壊して、弟のマンションへ行くと、疲れが凄くて、「なんでだろう?」っていつも思ってました。医者に言ってみたら、マンションの床材(つまりコンクリートですね。)が腰に響いてそうなっているんだと。
それまでマンションで小都会に住むっての、結構いいじゃん!とか思っていたから、なんか衝撃だったんです。
自分たちが思っているほど、人間って「スマート」な物じゃないんじゃないかって思います。だから、やっぱ「折り合い」をつけるときに謙虚である、動物としての自分を見つめるって、結構大切なんじゃないかって思ったりもします。

投稿者 kazoo : 2005年02月09日 09:01

kazooさん ぜんぜん幼稚な意見だとは思いません。ここはひとつ、謙遜なさらずに。
というわけで、住まいの中で床というのはとても大切です。人間の身体を支えているんですからね。
モデルハウスを設計したことがあって、1階に堅い素材のフローリングの床、2階に比較的柔らかい素材のフローリングの床というふうにしたら、2階の柔らかい床の方が圧倒的に疲れませんでした。
僕らには、まだまだそう言う感性は残っているのです。(あたりまえですが)
僕はその感性を信じています。それは、kazooさんが言われるような、「動物としての自分を見つめる」ことなんだと思っています。

投稿者 fuRu : 2005年02月09日 09:23

古川泰司さん TB有り難うございます。
こちらも、申し訳ありませんが、TBさせて頂きました。
かなり、濃い内容のサイト見たいので、今度、ゆっくり読ませて頂きたいと思います。

森林インストラクターって、どんな仕事ですか?

投稿者 ka2ya : 2005年02月09日 12:20

ka2yaさん こんにちは
この本のタイトルで検索していてka2yaさんの「Ecotechnology」にたどりつきました。
http://ka2ya.jugem.jp/
共感出来る記事の多さと簡潔な文章でまとめられており、これからもちょくちょく訪問したいと思っていますので、よろしくおねがいします。
>森林インストラクターって、どんな仕事ですか?
残念ながら仕事にはなっていません。仕事は主に個人住宅の設計をやっています。森林インストラクターとはなにかということでしたら、以前のエントリーでコメントで答えている部分をお手数ですがご参照下さい。
http://af-site.sub.jp/blog/archives/000160.html
http://af-site.sub.jp/blog/archives/000320.html

投稿者 fuRu : 2005年02月09日 12:39

こんにちは新月伐採へのコメントありがとうございました。
このエントリーにも興味がありいずれ購入します(1冊では送料がかかるので)目次を少しみましたが、「さかさ眼鏡」と少し内容がにているかも。というか唯脳論以来、結論は首尾一貫しているのですが、養老センセイの本は読むたびに大切なモノを思い出せさてくれるということは、読み終わるといつも現代社会のベクトルに引き戻されているということなんでしょう。ダメですね。

投稿者 ishikaawa : 2005年02月11日 17:17

ishikawaさん こんにちは
僕は養老さんの初心者で、「バカの壁」も読んでいません。「唯脳論」もです。茂木健一郎に興味があって、彼の本を読んでいたら、養老さんが登場。(スルメを見てイカがわかるか)その本の中の養老さんがとっても面白かったので、養老さんの本を読んでみようと思ったのです。
この本で養老さんは、建設・土木は都市化したがる人間の本性が出ている行動だとして、斜に構えた視線を投げかけているのが、本屋さんでぱらぱらとページをめくたっときに感じました。
というわけで、僕らのような建設に関わる者にとって、環境論をどのようにとらえたらいいのか、そのヒントが養老さんの言葉にあるのではないかと期待しながら読んだというわけです。
環境至上主義で人間は滅んだ方が良いという極端な原理主義を小気味よく退けながら展開する養老さんの意見は、まさに正論。こんな正論を書いてくれる方も他にはいない。それだけでも価値がある、そう思える本です。是非読んでください。

投稿者 fuRu : 2005年02月11日 22:04