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2005年05月31日

「東京大学のアルバートアイラー」---菊地成孔+大谷能生

[books ,ジャズ--jazz ]

「東京大学のアルバートアイラー」
著:菊地成孔+大谷能生 出版:メディア総合研究所
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UAの「SUN」で、サウンドに広がりと奥行きを与えている
マルチ(!)サックス奏者の菊地成孔は
昨年(2004年)の(UAのツアーの真っ最中)に東京大学の一般教養の講義を行いました。
その前期分の講義録をまとめたのがこの本。

内容は「ジャズ」を歴史的に読み解くというもの。
中心は「モダンジャズ」。そして、後半はマイルスの話に終始しています。
具体的には、コード体系を築いたバークリー・メソッドを中心に、その前史であるバッハの12平均律と、その後の展開のMIDIで挟み込んで、音の記号化という側面で、「モダンジャズ」の「モダン」たるところを解きほぐして語ってくれています。

いやいやいや、ほんとに面白い本です。
「モダン」以降の解釈のところを引用してみましょう。

様式を発展させる事で「歴史」を生み出してきたある芸術運動っていうものがさ、その根本的な成立条件が蒸発してしまうことによって危機に陥ると、必ず、例えば「バッハに帰れ」みたいな形でね、規範を過去に求めて、改めて自分の領域を確定しようって試みが行われます。これ、全部まとめて「新古典主義」的な運動って言っていいと思うんだけれども、これとは逆にさ、そういう危機の中で、これまでの条件の中からコアな部分だけを取り出して、で、さらなる抽象化を推し進めて、これまでの歴史とは決定的に切れた場所へ行こうとする動きも起こったりするのね。(中略)「新古典」がポスト・モダン的なものだとするならば、こっちはハイパー・モダン、超モダンだと言えるかもしれません。

なんだか、建築のデザインの世界でもまったく同じ事がいわれていたのでびっくり。
ポストモダンの運動は同時多発的だったということにあらためて気付かされました。

このところ、再び「モダン」とはなにかと言うことをいろいろ考えているのですが
そういう意味でもとても刺激的な本です。

ちなみに、菊地成孔さんは僕と同い年ですね。

さて、この本の中でもう一つ。
「モダンジャズ」というのは1950年代から1960年代に流行った音楽です。
半世紀も前のものです。
それを、ポスト・モダン、ハイパー・モダンの現代に聴くと言う事はどういうことか?
そういう問い掛けがこの本にはあります。
菊地成孔は、ジャズのアーカイブ化が進んでいるといいます。
ようするに、古いジャズを目の前に並列に並べて、
歴史順とかジャンル順、あるいは雰囲気別にカテゴライズして聴くと言う事です。
同時代的にはありえなかった音楽の聴き方ですね。
そこには、カテゴライズ化する欲望があります。
カテゴライズ化して、ばらばらにしてから
もう一度再構築するという欲望。
この欲望は僕らが生きているこの時代の欲望ではないかと僕は考えています。

そして、この欲望は
僕の仕事でもある建築のデザインの世界でも同様に存在していると感じています。
世界をデザインする家」というのは、その分かりやすい一例でしょうし、
世界を再構築する欲望と言う視点でもう一度見直さなければならないと感じます。
Be-h@usが進んでいる道も、再構築への欲望に裏付けされたものではないかと考えています。

音楽の話から飛んでしまいましたが
同時代的な問題意識をこの本から強く感じましたし、
今までぼんやりと考えてきた事を別の角度から明確にしてもらったと思います。
僕も、この問題に意識的に取り組んでゆきたいと思いました。

jm's myTaste
Yutalog

<2005.06.28.追記>
なんと、この本の公式ホームページ(ブログです)がありました。
『東京大学のアルバート・アイラー』公式サイト

<2005.07.03.追記>
情熱大陸に菊地成孔、出ていました。

<2006.07.03.追記>
後編に当たる「キーワード編」の記事をアップしました。
○「東京大学のアルバート・アイラー---東大ジャズ講義録・キーワード編

投稿者 yasushi_furukawa : 2005年05月31日 09:25

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東京大学のアルバート・アイラー—東大ジャズ講義録・歴史編菊地 成孔 大谷 能生メ [続きを読む]

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マイルスでっス!!                東大!京大!ナンボのもんじゃー!なぁ兄弟!             っていうのが正しきビジネスマンの叫びで ... [続きを読む]

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 まず、本の名前が気になる。何故、東京大学でアルバート・アイラーなの?である。哲学書なの?って思うけれど、音楽関係の本棚に置いてある。本当にジャズの本なのかも、... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年01月21日 08:50

コメント

音楽関係でポストモダンの言葉を初めて使ったのは1980年代のスタイル・カウンシルだったと思います。まぁ、彼らの音楽を初めて耳にしたとき、ちょっとしたデジャ-ビュを覚えましたね。既存のロックでもジャズでもポップスでもなく、昔聴いたことがあるようで、聴くのは初めてという感じでしたね。もう20年くらい前ですかね。

投稿者 iGa : 2005年05月31日 18:36

iGaさん
この本、ほんとに面白いです。絶対におすすめです。
ところで、スタイル・カウンシルは好きで、ボックスセットも買いましたが
特にポール・ウイラーはジャムの頃からのフアンです。
スタイル・カウンシルは名前の通り音楽の「スタイル」にこだわったユニットでしたね。
そう考えると、ポップスをスタイルでカテゴライズして再構築していたんですよね、彼らは。
うーん。その頃は、ロックの世界の方が進んでいたんだな。

投稿者 fuRu : 2005年05月31日 20:30

ううーーーん、そそられますね。fuRuさんの書き方が特に・・・。(笑)
久しぶりに、JAZZの本でも読んでみたくなりました。ご紹介、あり
がとうございます。

投稿者 Chichiko Papa : 2005年05月31日 20:37

Chichiko Papaさんにも絶対おすすめ。
講義室では、大音量でアルバート・アイラーなんかをかけていたようです。
文章中にも、ここでこの音源を聴くという個所がなんども出てきて
僕は3分の2くらい知っている曲だったのでなんとか話からはずれなかったのですが
ほとんど知らなかったりすると、ちょっとこの本の面白さは分かりにくいかもしれません。
Chichiko Papaさんなら、たぶん、まったく大丈夫。
大いに楽しめると思います。

投稿者 fuRu : 2005年06月01日 09:22

これ面白そうですね。
年取ったためか、歴史に興味が出てきました。
買ってみます。

菊地 成孔さんって面白そうですね。多分、まだ聞いたことがないです。
私の生息範囲ではライブがないのでしょうね。

大谷 能生さんは、2年程前に聞きましたが、面白い音楽家ですね。

憂鬱と官能を教えた学校は去年(?)買ったんですが、まだ読めていません。
歴史ならば読めるかな。

投稿者 maida01 : 2005年06月01日 12:42

maida01さんにもぜひおすすめです。

菊池成孔さんのライブ情報を
Yutalogさんがエントリーしています。

http://studio-oice.cocolog-nifty.com/yutalog/2005/05/post_4032.html

新宿PIT INNですね。

投稿者 fuRu : 2005年06月01日 12:59

PitInnですか。行ってみます。
情報をありがとうございます。

投稿者 maida01 : 2005年06月01日 18:27

はじめまして
先ほどTB送信させていただきました
本当に面白い本でした。

情報が豊富な方々のところへ、とんでもないハンドル名で現れて恐縮です。
スタカン大好きでしたが気付いていませんでした・・・
また、伺います

投稿者 マイルス : 2005年07月08日 21:00

マイルスさん はじめまして
いやいや、マイルスさんのブログをいま行ってきたところですが
ぶっ飛んでいますね。いい意味でですよ。
すっごい、パワーを感じました。
これからもよろしく。

投稿者 fuRu : 2005年07月09日 00:20

コメント&TB返し、有難うございます

過去記事、凄い参考になります!!
とくにヴィクター・フェルドマン
スティーリーダンのAjaに参加していたんですね!!
輸入版をジャケ買いしたか?ブックレットを読んでいなかったか?
単純にボーっとしていたか?で全然気付いていませんでした・・
ちょっと、引きずりだしてこよっ!!久々に聴いてみたくなっています

刺激、有難うございました。
また、伺います。
失礼しました。

投稿者 マイルス : 2005年07月11日 20:12

マイルスさん
スティーリー・ダンのレコーディングクレジットは
最近まで謎でした。
Ajaもジャケットなどには何も書いてありません。
たまたま、ボックスセットを買ったので、僕もわかったという感じです。

投稿者 fuRu : 2005年07月12日 00:55

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