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2007年05月13日

44

[いろいろ--misc. ]

私の仕事は「かたち」を残す仕事です。
ある人は、その「かたち」を「作品」というふうに呼びます。
でも、「作品」と言ってしまった時に
「作者」は誰?という問いかけが生まれます。
その時にどう答えるか?
それは設計者によって様々であり、その違いによって「設計者」の立ち位置が微妙に変わってくるのだと思います。特に住宅設計の場合はその違いが大きいと思います。

実は、今日は私の誕生日で44歳になりますが
毎年の誕生日のエントリーでは、年相応に感じたことを書いていますので
今年もこのごろ感じたことを書いてみたいと思います。

私は、かねてから設計者は翻訳家であると思っています。
「翻訳」とは、住まい手の「生活」を住宅という「かたち」に「翻訳」すること。そこでは機能を越えた「生活」の息吹を「かたち」に移し替えることが求められていると思っています。
その点で、村上春樹と柴田元幸が翻訳について語った言葉に大いに共感しました。
「設計」は、すまい手の生活の「翻訳」

私はジャズが好きでよく聞きますが、ジャズの何が好きかと聞かれれば、参加者の共同作業・相互触発というものがジャズでは大切で、その点でジャズの演奏には固有の「作者」は存在しない。それが私にとって大きな魅力になっているのです。私の中のどこかに、ばらばらな個人と個人が「ひとつ」になってものをつくってゆくことへの強い希望があるのですね。その思いが、私とジャズを繋いでいるのだと思います。

マイルス・デイビスは「カインド・オブ・ブルー」をつくったけれども、マイルスは、決してそれをひとりではつくることができなかった。そういうことの大切さです。
Kind of Blue---Miles Davis

また、ジャズではないですが
テリー・ライリーは「イン・シー」という曲を作曲したけれども、この曲は演奏者がいなくては成り立たない自由な曲であること。その自由さ。その大切さ。
In C---Terry Riley

ですから、私が今まで残してきた「かたち」(それは住宅が圧倒的に多いのですが)に「作者」がいるとすれば、それは「住まい手」「作り手」「私」の三者です、と言えるのです。

私の、雑誌・メディアへのデビュー作といえるS_House(世田谷)では、私は住まい手さんと一緒に職人さん探しから始めました。家をつくる様々な職人さんと住まい手さんが直接接することから始まる家づくり。お任せがちな家づくりのプロセスに、ダイレクトに住まい手さんに関わってもらう家づくりです。
その過程は、根気と時間のいる大変な作業でしたが、結果として「住まい手」「作り手」「設計者」の三者が一体となった家づくりが出来ました。

こうして出来た「かたち」は、たしかに私の「作品」だと思います。でもそれは「住まい手」の「作品」でもあり「作り手」の作品でもあるのです。

私はやり方は様々ですが、自分の仕事をいつも同じように考えてきました。でも、S_Houseのように、住まい手さんが十分に時間をさけることはほとんどありません。そんな時でも、住まい手さんが設計者や作り手に、すべてをお任せにしないようにしています。たとえば、設計のプロセスにおいても、住まい手さんの言葉を聞くこと、つまり対話を通して、これからつくる新しい家の「かたち」を住まい手さんといっしょに発見していこうと思っています。その発見のプロセスは家づくりにおいてとても大切だと私は考えています。ゆえに、それを実行してきました。それが、私の残してきた「かたち」です。

参加と発見のプロセスに関しては
映画監督のジム・ジャームッシュに映画作りに共感し影響を受けています。
「ジム・ジャームッシュ インタビューズ」

先日、ジャズの大御所の演奏を生で聴く機会を続けて得ました。
その時に感じたのは、過去にやり遂げてきた仕事の上にあぐらをかくのではなく、今の仕事に生きている大家たちの姿でした。それはこころ打つものがあります。
とかく、人間というものは、今まで経験してきたことの応用でうまく取り繕うような生き方になりがちですが、そうではない生き様を目の当たりにしたのですね。
今を生き続けることの大切さです。
Jim Hall & Ron Carter@BlueNote_Tokyo
Keith Jarrett Trio@Tokyo Bunka Kaikan

一方、細野晴臣さんのインタビューにも心打たれました。
我々は過去からの引力に縛られて生きているという言葉には、俄然説得力があります。
HARRY HOSONO/CROWN YEARS 1974-1977

私は、今まで残してきた「かたち」、つまり私の過去からの引力を受けています。
私は、その引力からは決して自由になることは出来ないわけです。
逆に、過去の引力に従っていたのでは、今を生きることが出来なくなります。
過去からの引力を意識しつつ、今を生きること。
そんなことが、44歳になって少しずつ実感としてわかるようになってきた44歳の誕生日でした。


※新しいホームページで情報更新中!!

投稿者 furukawa_yasushi : 2007年05月13日 09:00

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コメント

お誕生日、おめでとうございます。
健康で、そして好きなお仕事を続けていらっしゃるということが何よりです。

住まい手の「翻訳者」、なるほど、そうですね。
どんな生き方をしたいのか、どんな家族構成で、どんな土地で、どんな予算で、あれやこれや。
いろいろな条件をまぜこぜにするミキサーではなくて、
翻訳者なんですね。
翻訳者によってきっとまったく違う解釈にもなり、驚きにもなり、発見にもなる。
材料から職人さんから施主さんから、いろいろな物と人と想いと「翻訳者であるfuRuさん」とのコラボが家を作り出す。

細野さんのインタビュー、「人生は直線じゃなくて螺旋」という言葉、
なるほどな~。
過去の模倣をしているのではなくて引力によって引っ張られたり引きずられたりしながらも
今を生きていくのですね。

がむしゃらに知識をむさぼる20代、
暗中模索の30代、
そして引力を感じながらも歩き続ける40代。

40代って案外ステキな年齢ですよね。
fuRuさんの後ろにまわって髪の毛でも引っ張ってみたいと思います

投稿者 reirei : 2007年05月13日 12:55

お誕生日、おめでとうございます。
「かたち」を残す仕事って最高だと思いますね!
変な話かもしれませんが、自分が死んでもこの世に証が残っている・・・
これ以上無い仕事だと思います!

投稿者 chacha hide : 2007年05月13日 14:44

reireiねえさま
ありがとうございます。
そうですね。ねえさまとは誕生日、数日違いでありますね。
ふーむ。
まあ、あんまり強く髪の毛を引っ張られると、とれちゃうかもしれませんのでほどほどにお願いいたします。

投稿者 fuRu : 2007年05月13日 20:30

chacha hideさま
「かたち」を残す仕事というのは
見方を変えればすべての仕事が、実は「かたち」を残す仕事なんではないかと思っています。
「かたち」を残している実感というものが、薄れている、失われている、奪われてしまっている、そういう悲しい境遇で仕事をされている人もおられる。そういう方々に比べて、私の仕事は「かたち」を残すと言うことの実感と責任が重くのしかかってくる仕事なんですよね。

>自分が死んでもこの世に証が残っている・・・
うーん、やっぱり責任重大ですね。(^^;)

投稿者 fuRu : 2007年05月13日 20:34

お誕生日おめでとうございます!今日でしたか。
40代、こんなことも背負うのか〜無理だってば...と思うようなことも多いですが、なかなか味わい深いです。少なくとも、小さな子どもの頃よりは物事を俯瞰できるから辛くないなぁ。
設計者は翻訳家というの、なるほどそう思います。そう思ってくれる設計者とだったら、楽しく家のことが考えられそうでいいな。

投稿者 kadoorie-ave : 2007年05月14日 00:08

お誕生日おめでとうございます。
44歳ですか~。

40代に足を踏み入れるのが怖いような、申し訳ないような気持ちで過ごしている私としては、哲学的で面白い視点を提示してくださるfuRuさまのブログが、道しるべのように感じられます。
私も納得の40代を迎えたいものです。。。


投稿者 羊のjun : 2007年05月14日 01:46

お誕生日おめでとうございます。数ヶ月間の同じ年ですね。
設計についての文章、いろいろと教えられます。
あと、fuRuさんが音楽や映画の事を設計になぞらえているのにも感銘をうけました。たしかにマイルスは、特にあの黄金のカルテット時代には、ほとんど作曲はショーターとハンコックにまかせ、メンバーの良いところを引き出してあの素晴らしいアルバム達を作ったあたり、ジャームッシュの映画作法に似ているとも思います。それが設計にもつながっていると。なるほど。

投稿者 スナフキン : 2007年05月14日 02:20

kadoorie-ave さま
ありがとうございます。
今日の明日館は薔薇が良い感じです。
ここ1週間が見ごろでしょうか。
40代というのは、大変な世代だという実感もありますが
期待されることと、それに答える気力や体力のことを合わせて考えると
一番良い時期だなと思います。
がんばらないといけませんね。
自分に向けて、ファイト!、掛け声をかけましょうね。

投稿者 fuRu : 2007年05月14日 10:02

羊のjun さま
ありがとうございます。
40代はいいですよ。
やっぱり、30代って、まだまだ社会から見れば「ひよっこ」。
特に私の仕事では50代でも新人といわれていますから30代は言わずもがな。
40代になってやっと風通しが良くなってくるという感じです。
それだけ、経験の積み上げが重要な仕事ということなんですね。
でも、それだけではなくて、最近は歳を取るってのも良いものだなと素直に感じていますよ。(^_-)-☆

投稿者 fuRu : 2007年05月14日 10:16

スナフキンさま
ありがとうございます。
スナフキンさんのミクシィでのプロフィールや参加されているコミュニティを拝見させていただいて、何だかちょっと近しいものを感じています。
ブログを始めて、良いなと思ったことは二つあって
ブログがなければお付き合いのなかったと思われる人たちとの出会い。
そして、いままで、ぼやっと考えてきたことを、文章にしてみて、さらに、さまざまな人に読んでいただけたことによって、次第にはっきりとした「かたち」になってきたということです。
ブログは出会いのきっかけの場として、自分の考えを整理する場所として、自分にとってとても重要なものになってくれています。

投稿者 fuRu : 2007年05月14日 10:26